会社を守る“手元資金”足りていますか 簡単にわかる安心残高の目安

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 「売上は伸びている。けれど、月末の支払いが近づくたびに通帳を何度も開いてしまう――」
 創業から5年、ようやく軌道に乗り始めたあなたの頭をよぎるのは「この残高で本当に大丈夫か?」という不安かもしれません。材料費の高騰、取引先からの入金遅れ、突然の設備トラブル……。どれも利益には現れにくいのに、手元のお金だけが容赦なく減っていく現実があります。

 もし今、「何かあったら資金がもたないかも」と感じるなら、本記事はまさにあなたのための“安全マニュアル”です。専門用語は極力使わず、

  • 自社に合った「安心残高」のかんたんな求め方
  • 残高が足りないときにできる5つの改善策

を順序だててお届けします。

 読み終わるころには、「いくらあれば安心か」が数字でハッキリし、今日すぐに取るべき“次の一手”が見えているはずです。会社を守るクッションづくりの第一歩を、一緒に踏み出しましょう。


1.手元資金が減る4つの落とし穴

1-1 「売掛金」という名のタイムラグ

  • 商品を出荷して請求書を出しても、入金は30〜90日後。
  • その間に材料費や給料の支払いが先に来る。
  • 成長期こそ売掛金が膨らみ、手元資金が圧迫されやすい

ミニコラム:要注意サイン

  • 売上高が右肩上がりなのに、通帳残高が横ばいor減少
  • 売掛残高が月商の2か月分を超えた

1-2 在庫を「倉庫で寝かせる」コスト

  • 買った瞬間に現金は出ていくが、売れるまでお金は戻らない。
  • 平均在庫日数×1日分の固定費だけ、売れるまでコストがかかっている。

1-3 支払条件の不利―「先払い・即払い」

  • 小口の下請けほど、支払いサイトが短い傾向。
  • 仕入れ先との交渉が後回しになりやすく、結果的に資金を圧迫。

1-4 毎月の“固定費ロック”

  • 家賃やリース料、従業員給与など、売上ゼロでも出ていくお金
  • 手元資金を測るときは、ここを見誤ると大事故になる。

2.「いくらあれば安心か」を決める3つの物差し

2-1 月商2か月分――まずはシンプルに把握

  • 月商が300万円なら、600万円を下回ったら黄色信号
  • メリット:計算が一瞬で終わる。
  • デメリット:業種の違いを考慮していないので過剰な資金を抱える可能性がある。

2-2 固定費3か月分――“息継ぎ”できる期間を確保

  • 毎月の固定費が300万円なら、最低900万円
  • 3か月あれば、販促強化・コスト削減・金融機関相談の打ち手を講じる猶予が生まれる。

2-3 お金の戻り日数(CCC)分――業種差を吸収

計算ステップ

  1. 売掛金が入るまでの日数(回収期間)
  2. 在庫が売れるまでの日数(在庫期間)
  3. 仕入れ代金を払うまでの日数(支払い猶予期間)
  4. ①+②−③ = お金が出て戻るまでの正味日数

例:60日(回収)+30日(在庫)−45日(支払)=45日
→ 毎日の固定費+変動費を45日分確保すれば安心。


3.自社の“安心ライン”を出す5ステップ

  1. 固定費リストを作る
    • 家賃、給与、リース、通信、保険……漏れなく書き出す。
  2. 変動費の平均額を出す(過去6か月〜1年で月平均)
  3. 売掛・在庫・支払いサイトをざっくり日数化
  4. 2章の3つの物差しから一番しっくり来る式を選び、必要額を計算
  5. 通帳残高と比較し、足りないなら「不足額」をメモ

ワンポイント

  • 不足額が月商の2割超なら、早急に対策会議。
  • 計算はエクセルでも手書きでもOK。大切なのは毎月同じ方法で継続すること。

4.足りないとどうなる?リアルな3つのリスク

リスク具体例連鎖する影響
信用ダウン振込遅延仕入れ先が先払いを要求 → さらに資金が詰まる
突発ショックメイン機械の故障で修理費300万円新規受注を断り売上減 → 返済原資の不足
金融機関評価↓残高不足で当座貸越を頻繁に利用融資枠縮小・金利アップ → 長期投資ができない

5.手元資金を厚くする5つの具体策

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5-1 請求書を1日でも早く出す

  • 週1回まとめ請求 → 出荷翌日に即日請求へ。
  • 入金が10日早まるだけで、月商600万円企業なら約200万円の残高改善。

5-2 支払いサイトを伸ばす交渉術

  • コツは「良い時期に頼む」。売上が好調・残高があるタイミングで打診。
  • 仕入れ額の大きい上位3社に絞るだけでもインパクト大。

5-3 在庫の“見える化”で眠り在庫を半減

  • ABC分析で動きの遅い在庫を圧縮。
  • 倉庫スペース縮小 → 家賃・光熱費もダウン。

5-4 余裕があるうちに“枠”を確保

  • 当座貸越、ビジネスカードローン、保証協会枠など。
  • 「借りない」ではなく「借りられる状態をキープ」が目的。

5-5 月次で資金繰り表を更新し“見える化”

  • 売上、入金予定、支払い予定を1行ずつ並べるだけ。
  • 来月の“赤字日”が事前に見えるので、早めに資金移動や借入を検討できる。

まとめ ─ この記事で必ず持ち帰ってほしい3つのポイント

  1. 手元資金=“今すぐ動かせるお金”が会社のクッション
    利益と現金は別物。売掛金や在庫に資金が眠ると、黒字でも通帳が空になる危険があります。
  2. 安心ラインは“日数”と“固定費”で測るとブレない
    • 月商2か月分
    • 毎月必ず出ていくお金3か月分
    • お金が戻るまでの日数(CCC)分
      いずれか一つの式で自社に合う目安を決め、毎月同じ方法でズレをチェックしましょう。
  3. 足りないときは「早い請求・支払サイト延長・在庫圧縮・融資枠確保」の4本柱で厚くする
    入金を早め、支払いを遅らせ、在庫を軽くし、余裕があるうちに銀行と枠を確保――これが最短ルートです。

今すぐやる3ステップ

  1. 通帳残高をメモし、安心ライン(上記の式)と比べる
  2. ズレがあれば、請求書を今日中に発行するサイクルに変更してみる
  3. もっと深掘りしたいと感じたら、ササキ税理士事務所にお気軽にご相談ください

クッションは厚いほど決断の幅が広がります。今日“数える”だけでも、半年後の安心が変わります。