在庫はあるのにお金が足りない――その原因は、在庫がお金に戻るまでの時間にあります。本記事では、その時間を示す「棚卸資産回転日数」で資金の詰まりを見える化します。試算表で分かる現状のつかみ方、数値の増減の読み方、明日からの実務策までやさしく解説します。読み終えたらすぐ実行できます。
棚卸資産回転日数と資金繰りの基本
在庫があるのにお金が残らない…。原因は“在庫が現金に戻るまでの時間”です。本章では棚卸資産回転日数の意味と、資金繰りへの効き方をやさしく解説します。まずは全体像をつかみ、効果をすぐ実感できる土台を作ります。
棚卸資産回転日数とは
棚卸資産回転日数は、「仕入れてから売れて現金になるまで、平均で何日かかっているか」を表す指標です。感覚でとらえていた在庫の重さを、日数で見える化できます。考え方はシンプルで、在庫の平均額を「1日あたりに売れていく原価」で割って求めます。原価とは売れた商品の仕入れ値の合計のことです。たとえば在庫の平均が300万円で、1日あたりの原価が10万円なら、在庫日数は30日です。日数が分かると、在庫にお金がどれだけ寝ているかが直感的に理解でき、会議でも共通言語として使いやすくなります。
短いほど資金繰りは楽に
棚卸資産回転日数が短いほど、お金は早く戻り、手元資金は増えやすくなります。逆に日数が長いと、仕入に使ったお金が在庫のまま止まり、支払と入金のズレが大きくなり資金繰りが苦しくなります。例えば在庫日数が90日から60日に縮まるだけで、30日分の在庫資金が浮く計算になります。これは追加の借入や利息を減らす効果にもつながります。一方で、極端に短くしすぎると欠品リスクが高まります。大切なのは「売れ筋は薄く早く、欠品を防ぐ最低ラインは確保」というバランスです。
試算表で確認できる
棚卸資産回転日数は、毎月の試算表で棚卸資産と原価の動きを見れば十分に管理できます。棚卸資産回転日数が長くなるのは在庫にお金が寝ているサイン、短くなるのは回転が上がっているサインです。前月比や3か月平均で流れを確認すると、小さな変化にも気づきやすくなります。棚卸資産回転日数が伸びたときは、①仕入の先行、②売上の弱さ、③入荷・製造・出荷の待ち時間、④季節要因、⑤棚卸の記載ミス、などを疑います。短くなったときは、欠品や取り逃しが増えていないかも同時に確認します。
試算表で出す棚卸資産回転日数
試算表だけで在庫の動きを見える化します。必要な数字をそろえ、今日の棚卸資産回転日数を出し、増減のサインを読み取れるようにします。
使うのは2つの数字だけ
棚卸資産回転日数を出すのに使う数字は「在庫の平均額」と「1日あたりの原価」の2つだけで十分です。
在庫の平均額は、前月末と当月末の在庫金額の平均で計算します。前月末の数値がなければ、当月末の在庫だけでも近似として使えます。試算表(貸借対照表)の「棚卸資産(商品・製品・材料など)」を見れば分かります。
1日あたりの原価は、当月の売上原価を当月の日数で割るだけです。試算表(損益計算書)の「売上原価」を使います。月次で売上原価が出ていない場合は、まずは「仕入高」を代わりに使い、直近3か月の平均でならしても大きな方向性はつかめます。日数はカレンダー日で問題ありません(例:30日、31日、2月は28日や29日)。
棚卸資産回転期間の計算方法
計算式はとてもシンプルです。
棚卸資産回転日数 = 在庫平均 ÷(当月の売上原価 ÷ 当月日数)
かっこ内が「1日あたりの原価」です。
例を挙げます。在庫平均が300万円、当月の売上原価が300万円、当月日数が30日の場合、1日あたりの原価は10万円です。よって棚卸資産回転日数は「300万円 ÷ 10万円=30日」となります。つまり、在庫が現金化するのに30日かかるということを意味します。
数値の見方(増減のサイン)
棚卸資産回転日数の目安づくりは、まず業種や商材の特性を踏まえることが大切です。理想の水準は会社ごとに違いますので、「同業の感覚」と自社の実情から**相対目標(いまより短くする)を置きます。同時に、欠品を防ぐための下限日数(これ以下は危険)**も決めます。下限は、仕入先の納期、季節の波、主力商品の重要度などを基に設定し、主力はやや厚め、動きが遅い品は薄めが基本です。
実務では、動きが大きかった月に原因メモを1行残し、翌月の発注頻度の調整、滞留品の処理、工程の待ち時間の見直し、価格の見直しなど具体策へつなげます。管理表は「目標・下限・実績・対策」を一枚にまとめると便利です。こうして目標と下限を両建てで運用し、毎月の気づきを打ち手に変えていけば、棚卸資産回転日数は無理なく短くなり、欠品も防ぎながら資金繰りを安定させることができます。
棚卸資産回転日数の改善の打ち手
ここでは棚卸資産回転日数を短くし現金化を早める改善策を説明します。仕入れ見直し・滞留在庫の現金化・工程の待ち削減・下限設定で、資金繰りを楽にしつつ機会ロスも防ぎます。明日からすぐに試せるのでぜひ確認してみましょう。

仕入れは“小さく・こまめに”へ
棚卸資産回転日数を縮める近道は、まとめ買いを減らすことです。まとめ買いは単価が少し下がっても、余分な在庫でお金が長く寝てしまいます。まずは「次回発注量を20%減らす」「発注頻度を週1回から週2回にする」など小さく試します。商品は「よく売れる・ふつう・動きが遅い」に分け、よく売れるものは薄く早く回し、動きが遅いものは最小在庫に抑えます。仕入先には分納や最小発注数量の見直しを相談します。目安として一定の在庫量を置き、これを超えたら発注を止めるルールにすると、持ちすぎを防げます。
ただし、棚卸資産回転日数は短いほど資金繰りが楽になりますが、短くしすぎると欠品が増え、売上の取りこぼしや顧客離れにつながります。そのため、主力品は在庫を厚めに、動きが遅い品は薄めに設定し、季節要因がある品は繁忙期だけ下限を引き上げるなどの対応で機会ロスを最小にします。
動かない在庫を現金化
長く動いていない在庫は、資金繰りを圧迫します。まずは一定期間以上滞留している在庫に印をつけ、対応方法を決めます。方法は、段階的な値下げ、セット販売での魅力づけ、売れ筋との抱き合わせ、販路の見直し)、専門業者への売却などがあります。しっかり対応できるように社内ルールとして警戒ラインと対応方法の基準を定め、定期的に進捗を確認します。基準は在庫の特性、在庫の回転、リードタイムや季節性に合わせて調整します。あわせて帳簿と実物の照合を行い、数が合わない品は早めに原因を突き止めて是正します。こうした仕組みを回すことで、滞留在庫を現金に戻し、棚卸資産回転日数を減らし資金繰りを安定させられます。
待ち時間を減らす
発注から入荷、検品、保管、ピッキング、梱包、出荷までの流れにある「待ち」を減らすと、棚卸資産回転日数は短くなります。まず工程を紙に横一列で書き出し、どこで止まっているかを見える化します。よくある止まりは、承認待ち、入荷後の検品待ち、梱包資材待ち、出荷締め時間とのミスマッチです。改善は小さく始めます。例えば、承認を1日1回から午前・午後の2回に増やす、検品の時間帯を入荷時間に合わせて固定する、出荷締めに間に合うようピッキングを前倒しする、よく使う資材は「2箱になったら即発注」の合図を付ける、などです。仕入先のリードタイムを一覧にし、遅れがちな先には事前連絡を入れるとムダな待ちが減ります。
まとめ
在庫が動けばお金が回ります。棚卸資産回転日数は、在庫がいつ現金に変わるかを教えるシンプルな物差しです。まずは「いまより○日短く」の目標と、欠品を防ぐラインを決め、試算表で毎月確認します。発注は小さくこまめに、滞留品は素早く現金化し、工程の“待ち”を一つずつ減らすだけでも資金繰りは変わります。当事務所では、試算表などの数字を使った経営サポートを行っています。自社に当てはめるのが難しい、どこから始めるか迷うという方は、一度ご相談ください。