試算表で一発把握!仕入債務回転日数を使って資金繰りを改善しよう

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「売上は出ているのに、口座にお金が残らない…。」その原因のひとつが、仕入代金の支払いタイミング=仕入債務回転日数です。支払日が少し早いだけで、資金繰りがきつくなります。本記事では、試算表からのかんたんな計算方法、目安の置き方、月次のブレを抑える見方、そして今日からできる改善手順までをやさしく解説します。読み終えたときには、自社の“いま”が数字でわかり、無理のない一歩が踏み出せます。

仕入債務回転日数とは?資金繰りの入口

まずは、仕入債務回転日数の全体像をつかみましょう。仕入債務回転日数の意味、資金繰りとの関係、試算表のどこを見るかを確認します。

仕入債務回転日数とは?

「仕入債務回転日数」は、仕入れてからお金を支払うまでの平均の日数を表す指標です。たとえば「月末締め・翌々月末払い」なら、およそ60日で支払うイメージです。日数が長いほど支払うまでのあいだは手元資金を他の支出に回せるため、一時的に資金に余裕が生まれます。反対に、日数が短いと支払いが早く来るので、手元資金に余裕がない会社ほど苦しくなりやすいです。
ただし、むやみに長くすると仕入先の信頼を損ねたり、早期支払割引の機会を逃したりするリスクもあります。適正な日数は業種や商習慣によって異なるため、自社の実情に合った目安を持つことが大切です。まずは“支払いのスピード感”を数字で捉える入口だと考えてください。

試算表で使う数字

仕入債務回転日数は、「買掛金(まだ支払っていない仕入代金)」と「仕入高(一定期間に仕入れた金額)」を使って計算します。買掛金は先送りになっている支払いの大きさを、仕入高はどれだけ仕入れているかの量を示します。試算表を見て、この2つを押さえておくと、平均の支払い待ち日数に置き換えられるため、感覚ではなく数字の裏づけで話せるようになります。

まずは直近の試算表または決算書を開き、貸借対照表の負債の部にある「買掛金」、損益計算書の費用の部にある「仕入高」にマークを付けます。科目名が「商品仕入」「原材料費」「外注費」などに分かれている場合は、仕入に当たるものを合算しておくと後の計算がスムーズです。小売・卸は商品仕入、製造・工事は材料費や外注費が該当しやすいです。

試算表で計算する仕入債務回転日数

試算表の買掛金と仕入高から、いま平均何日で支払っているかを数で把握します。仕入債務回転日数は簡単に計算できます。

仕入債務回転日数の計算方法

仕入債務回転日数は、下記の計算式で算出します。

仕入債務回転日数 = 買掛金 ÷ 仕入高 × 日数

日数は、仕入高が1年間で見るときは×365日、月単位で見るときは×30日で計算します。たとえば、買掛金600万円・年間仕入高3,600万円なら、600÷3,600×365=約61日になります。月次なら、買掛金500万円・月間仕入高1,000万円で、500÷1,000×30=15日になります。結果は「平均して何日後に支払っているか」という支払いのスピード感を示しますので、まずは大まかな日数をつかめれば十分です。

ここで仕入高のかわりに売上原価を使う場合があります。原則は仕入高を使うことをおすすめします。買掛金は「仕入の未払い」に対応する科目ですので、分母も仕入(=購買)ベースでそろえる方が実態に合います。売上原価は「当期に消費した原価」であり、在庫増減の影響を受けます。そのため、売上原価を分母にすると、仕入が多かった月でも在庫が積み上がっただけなら回転期間が長く見えてしまうなど、タイミングのズレが生じやすいです。

目安の置き方

目安の数字は、業種や商習慣で大きく変わります。まずは同業の感覚をヒアリングしつつ、社内では「いまより○日動かす(伸ばす/短くする)」という相対目標を置きます。たとえば、仕入先との関係を保ちながら資金を厚くしたいなら「+5日」、早期支払割引を取りにいくなら「-5日」のように、方向と幅を先に決めます。

参考として、仕入債務回転率は一般におおむね30日前後が目安となります。数字感をつかむための物差しとして活用しつつ、最終判断は自社の商慣行や季節性で微調整します。

あわせて、レンジ(下限・上限)を必ず設定します。

  • 下限日数:これより短いと資金が詰まりやすく、早払いし過ぎになります。
  • 上限日数:これより長いと関係悪化や価格・供給のリスクが高まりやすいです。

“動かせる幅”を先に決めておけば、交渉や運用の判断がぶれません。毎月の結果を見て、必要に応じて見直しましょう。

仕入債務回転日数が毎月ぶれる場合

仕入先ごとの毎月の仕入高が大きくぶれる会社では、仕入債務回転日数も上下に振れやすいです。そこで、直近3か月の平均仕入高を使って計算し直すと、実態に近いなめらかな日数になります。計算は、直近3か月の仕入高を合計して3で割り、買掛金 ÷ 平均月間仕入高 × 30日で求めます。たとえば繁忙月と閑散月が混在する場合でも、平均を使えば単月の偏りに引きずられにくく、資金計画や交渉材料として使いやすい指標になります。

季節性のある業種は、四半期ごとや繁忙期前後で同じ手順を繰り返すと、傾向を早めにつかめます。また、特定の大型案件で一時的に仕入が膨らんだ場合は、臨時要因として注記しておくと、翌月以降の比較が明確になります。毎回同じルール(対象科目の範囲、端数処理、締切日)で継続して計算することが、判断のブレを防ぐコツです。

仕入債務回転日数の改善方法

この章では、仕入債務回転日数を改善する方法を説明します。

0060 具体的な行動 0059 ヒント 0061 ポイント 0062 つまづき 0063 改善策 0064改善策
0065改善策

まずは現状を正しく知る

仕入債務回転日数を改善する第一歩は、現状を正しく知ることです。試算表の買掛金と仕入高をそろえ、毎月同じ計算方法で日数を出します。月ごとの振れが大きい場合は、直近の動きを平均して、実態に近い値で確認します。並行して、主要仕入先の締め日・支払日・支払方法を一覧化し、いまの仕入債務回転日数を見える化します。

支払先と支払条件の見直しを交渉する

支払条件の見直しを交渉します。交渉は誠実さが最も重要です。相手方にとって無理のない小さな延長提案を段階的に用意し、発注予定の共有や在庫情報の提供、請求書の電子化など、相手の手間を減らすメリットを添えて交渉しましょう。支払の山をならすために、月一回払いから複数回払いに変える案も有効です。合意したら必ず書面化し、支払予定表へ直ちに反映します。なお、取引の性質によっては支払期日に法的な上限がある場合があります。該当の有無を必ず確認し、その範囲内で設計します。

ただし、下請代金支払遅延等防止法(下請法)など法律で支払期日の上限が決まる場合があります。また、法令が適用されない一般の対等取引でも、過度な延長は関係悪化や価格・供給面のリスクを招きます。延長と引き換えに情報提供や受発注の工夫で相手のコストを下げるなど、Win-Winの設計にすることが大切です。

支払条件の見直しができないときは

支払条件の交渉は、相手先にとっても利益にかかわることなので一筋縄ではいかないことが多いです。その場合には、やることは2つです。売上代金の入金を早くすることと、在庫を軽くすることです。
入金を早くするには、納品後すぐに請求書を出します。請求先と宛名・金額・締め日を事前に確認し、電子請求にそろえます。期日前の「念押し連絡」を一本化し、分割請求や途中請求を使うと資金が前に来ます。小口でも確実に入れていくのがコツです。
在庫を軽くするには、発注量を少し減らし、回数を少し増やします。よく売れる品はこまめに発注し、動かない品は仕入れを控えます。安全在庫を見直し、滞留品は早めに処分します。
この2つで「お金の戻り」が速くなり、口座残高の谷が浅くなります。まずは、今の入金までの日数と在庫の量を測り、できることから一つずつ始めます。

まとめ

本記事では、仕入債務回転日数の意味から計算方法、目安の置き方、月次のブレをならす見方、そして実践的な改善手順までを整理しました。ポイントは、試算表の買掛金と仕入高から現状を把握し、同じ計算ルールで継続計測することです。目標は「いまより何日動かすか」を幅で決め、上限と下限も設定します。改善は、支払日の見直しや分割払い、相手方のメリット提示など誠実な交渉から始めます。まずは、買掛金と仕入高で仕入債務回転日数を算出し、主要仕入先の締め日・支払日を一覧化してください。当事務所では、試算表などの数字を使った経営サポートを行っています。自社に当てはめるのが難しい、どこから始めるか迷うという方は、一度ご相談ください。