個人事業主から社長へ!法人成りの節税効果をシミュレーション

055アイキャッチ画像 税金

第1章 なぜ今 “法人成り” なのか

個人事業主として努力が実り、売上も利益も伸びてくる──本来なら素直に喜びたい局面ですが、同時に重くのしかかるのが税負担の急増です。所得税は超過累進課税で、課税所得が上がるほど税率が階段状に跳ね上がります。たとえば課税所得が900万円を超えると国税33%、住民税10%、事業税5%前後が加わり、すべてを単純に合計した税率は約40%台。「頑張った分だけ税金に消える」感覚に陥り、成長のモチベーションが削がれてしまう経営者も少なくありません。

そこで救世主となり得るのが法人成り(法人化)です。株式会社や合同会社を設立することで、

  1. 法人税のフラット税率(利益が増えても所得税に比べて法人税の税率の上昇は緩やか)
  2. 自分への給料(役員報酬)の経費化

という二つのメリットを得られ、税負担を“軽減”できるようになります。本記事ではこの二つを両輪として、節税効果を具体的に解説します。


第2章 フラット税率が効く!所得税と法人税の違い

2-1 個人の所得税 超過累進課税の壁

個人所得税は5%から45%まで7段階。たとえば課税所得が1,200万円の場合、所得税33%、住民税10%、個人事業税5%で単純合計の税率は48%。そのため手元に残るキャッシュは想像以上に削られます。

【所得税率】 

出典 国税庁

2-2 中小企業の法人税率

資本金1億円以下の法人であれば、法人税(国税部分)は年800万円以下は15%、超過部分は23.2%で頭打ち。地方税(法人住民税・事業税・地方法人税)を合わせても、利益がどれだけ増えても実効税率は概ね30%台となります。結果として所得税と比べて税率が低いため「利益が伸びるほど節税効果が高まる」構造になるわけです。

2-3 利益別の税負担差を数字で確認

年間利益個人事業(概算)法人(概算)節税効果
500万円約120万円約120万円 なし
1,000万円約315万円約270万円▲45万円
2,000万円約810万円約610万円▲200万円

※注意 役員報酬・社会保険料・所得控除等を省略して試算しています。実際にはこれらの状況で節税効果は変動します。

年間利益が500万円時点では個人事業の方が法人とほぼ同じ税負担となりますが、年間利益が1,000万円規模となると法人の方が税負担が45万円ほど少なくなり節税効果が表れます。さらに年間利益が2,000万円規模になると節税効果が200万円超のインパクト。このように利益が増えるほど、法人税のフラット税率による節税効果の恩恵は無視できなくなります。


第3章 給与所得控除 役員報酬で節税できる仕組み 

法人成りのメリットは、役員報酬を支給した際の給与所得控除を適用できる点があります。この給与所得控除という一定の控除を受けられることにより役員個人の所得が圧縮され所得税の負担が軽減できます。

3-1 役員報酬の基本

法人が役員に対して支払う役員報酬は損金(経費)となり法人税を下げます。一方、受け取る個人は給与所得として課税されますが、ここで強力に働くのが「給与所得控除」。年収600万円なら164万円、年収1,000万円なら195万円が自動的に控除されるため、実質的な課税ベースを圧縮できます。つまり、

ポイント

・法人側 役員報酬により利益減少 → 法人税ダウン
・個人側 給与所得控除 → 所得税ダウン

という“二重節税”が可能です。

3-2 役員報酬設定3ステップ

ステップやること押さえどころ
① 利益試算売上・経費の年間見込みを「保守・基本・強気」の3パターンで作成法人化で増える固定費(社会保険料・均等割など)も必ず考慮
② 手取り逆算必要生活費から「手取り → 支給額」を逆算して報酬額を決定法人のお金は個人の生活費には使えないので報酬額の設定には注意
③ キャッシュ確認月次資金繰り表に報酬を組み込み、12 か月黒字をキープできるかチェック2か月売上ゼロでも払える現金残高があるかが目安

ポイント

税金・社会保険料・キャッシュフローの3側面が同時にバランスしているか必ずシミュレーションを。


第4章 “ダブル節税” 戦略と落とし穴

実際に、法人成りをした際に、役員報酬と給与所得控除でどれほど節税できるのか確認してみましょう。ここでは、年間利益1,200万円を想定し、役員報酬600万円と設定したケースを見てみます。

【前提条件】

比較条件個人事業主法人+役員
年間利益(営業利益)1,200 万円1,200 万円
役員報酬600 万円(毎月50 万円)
法人利益(役員報酬控除後)600 万円

【税額シミュレーション(概算)】

税目個人事業主法人 会社分法人 役員分②法人 合計
③=①+②
■所得税240 万円45 万円45 万円
■住民税120 万円45 万円45 万円
■事業税50 万円
■法人税等※150 万円150 万円
小 計405 万円150 万円90 万円240 万円

法人税等は、法人税、法人住民税、法人事業税等の合計となります。

※留意点 
年間利益の金額、役員報酬の金額により節税効果は変動します。
また、試算にあたって社会保険料の会社負担や所得税計算の際の所得控除等は省略しています。

実際にはこれらを考慮した試算で判断します。


【結果】


  1. 納税負担の差額:
    405万円(個人) - 240万円(法人+役員) = 165万円
    → およそ 40% の税負担を削減。
  2. 主な要因
    • 法人分は個人事業主に比べて低い法人税率により税金計算(約25%)される 
    • 役員分は個人事業主に比べて低い所得税率により税額計算(約15%)される
    • 役員報酬600万円に対し給与所得控除164万円の控除が効き、課税ベースが約436万円まで圧縮。

要確認!法人成りの落とし穴

法人成りをした場合には下記の落とし穴に注意しましょう。

055落とし穴
  • 社会保険料の増加
    法人成り=厚生年金・健康保険に強制加入。報酬月50万円なら会社・個人で各々15万円程の負担が生じる。報酬が高いほど節税益を食いつぶす恐れ。
  • 法人住民税の均等割
    利益にかかわらず法人税が年7万円~が発生する。赤字でも課税されるため、利益が少ない状況では負担感が大きい。
  • 決算・記帳コスト
    複式簿記+決算書作成が必須。
  • 期中変更NG(定期同額給与)
    役員報酬は期首3か月以内に決定し、その後は原則固定。利益が急変しても調整不可なので、初年度はやや低めが安全。

第5章 まとめ&次のアクション

  • 年間利益1,000万~が見込めるなら、法人化による節税メリットが視野に入る。
  • 役員報酬は生活費+社会保険料を踏まえた手取り逆算で設定し、1年間は変更しない前提で資金繰りを組む。
  • 節税はゴールではなく“手段”。キャッシュフローの安定資金調達力の向上という法人化の副次的メリットも総合的に評価する。

不安があれば専門家(税理士)と共同でシミュレーションを行い、設立タイミング・報酬額・資金繰り計画を三位一体で検討しましょう。法人成りを検討中の方はぜひ、ササキ税理士事務所にお気軽にご連絡ください。