「家族に給料を払って経費にしたい」――個人事業でこれを実現するには、専従者給与の厳しい三つの壁(6か月超のフル従事・15歳以上・3月15日までの届出)をすべて突破しなければなりません。ひとつでも欠けると給与は経費にならず、節税効果はゼロです。
ところが法人成りすれば話はシンプル。家族が実際に働き、金額が相場どおりなら、他社勤めの配偶者や休暇中だけ手伝う子どもへの給与まで“そのまま損金”。専従者要件や届出の縛りがなくなるぶん、家族を活かした節税の自由度がぐっと広がります。
この記事では、法人成りをすることで、家族への給与が経費になることについて説明しています。
皆様の参考になれば幸いです。
個人事業主が家族へ給与を払うときの「青色事業専従者給与」ルール
個人事業主が同居している家族に支払う給与を 経費 として落とすには、「青色事業専従者給与」の要件をすべて満たすことが絶対条件です。ポイントを整理しておきましょう。
要件 | 内容 | 押さえどころ |
---|---|---|
① 対象者 | 青色申告者と 生計を一にする 配偶者・親族 | 単身赴任・別居でも“生活費を共有”していると生計が一になる |
② 年齢 | その年 12 月 31 日時点で 15 歳以上 | 中学生以下は対象外 |
③ 従事期間 | 暦年で 6 か月超 事業に 専ら従事 | “本業が家業” と言える実働が必要 |
④ 事前届出 | <青色事業専従者給与に関する届出書> を 3 月 15 日まで に税務署へ提出 | 届出前に払った分は経費にできません |
「専ら従事」とは?
家族があなたのビジネスを 本業としてフルコミット している状態のこと。週1回の手伝い程度では「専従」と認められないため注意が必要です。
具体例
- × 専従要件を満たさないケース
- 配偶者が平日は外部企業でフルタイム勤務し、休日だけ自宅で経理を手伝う。
- 子どもが大学生で学業中心、長期休暇中だけアルバイト的に家業に従事。
- ○ 専従要件を満たすケース
- 配偶者が自事業の店舗で週5日、1日6時間レジと仕入管理を担当。外部に別の勤め先なし。
- 定年退職した親が年間を通じて商品発送と在庫管理に従事し、他に報酬を得る仕事がない。
なぜハードルが高いのか?
- 使える人が限られる
学生や外でフルタイム勤務している「専ら従事」の要件をを満たしにくい。 - 届出忘れ=全額否認
青色事業専従者給与に関する届出を3月15日を過ぎてしまうと、その年は経費計上できません。
※一度届出すれば翌年以降に再度届出する必要はありません。
家族に支払う給与を経費にしたいならば法人成りを検討しよう
家族への給与を経費にしたいなら、「6 か月超のフル参画」と「期日までの届出」をまずクリアしましょう。ここが難しい場合は、法人成りをすることで家族を 従業員または役員 にする方が給与を経費に計上するハードルが下がり、節税の選択肢が広がります。
法人で家族に払う給与が“まるっと経費”にするためには?
法人の場合、個人事業の 専従者給与 のように「年間6か月超フルタイムで従事」などの厳しい条件はありません。
要点は ①実際に働いているか ②金額が相場どおりか──この2つだけです。
① 勤務実態をきちんと示す
- 業務内容・時間の見える化
- 職務分担表、日報、タイムカード、勤怠アプリなどで「いつ・何をしたか」を記録。
- 賃金台帳の整備
- 氏名・支給額・支給日を社内帳簿として残す。
② 給与額が“ふさわしい水準”か確認
- 相場チェック
- 厚労省の最低賃金や求人サイトなどを参照。
- 社内バランス
- 他の従業員と比べて不自然に高くないかを必ず確認。
■ こんなケースでも経費OK!
法人の場合には、個人事業主の場合では認められなかった下記のようなケースでも給与を経費に計上することができます。
ケース | ポイント |
---|---|
配偶者が平日は他社でフルタイム勤務、休日だけ自宅で経理を担当 | 「勤務実態」と「相場内の時給」があれば問題なし |
大学生の子どもが長期休暇だけアルバイト的に家業を手伝う | 短期でも実働があれば可。時間に応じた妥当な給与設定が重要 |
NG パターンとリスク
法人の場合でも家族への給与がなんでも経費に計上できるということではありません。下記の場合は経費計上が認められないので注意しましょう。
パターン | 税務上の指摘 | 結果 |
---|---|---|
① 勤務実態ゼロ(名ばかり従業員) | 「経費ではなく贈与・代表者への役員報酬」と判断 | 経費否認・法人税増税、源泉税・保険料の追徴 |
② 過大給与(仕事量に対して高すぎ) | 超過分は「過大給与」として損金不算入 | 法人税アップ/家族側は税・保険料そのまま |
ポイントまとめ
- 働いた証拠+相場水準さえ押さえれば、家族への給与は全額損金。
- 書類整備を怠ると、経費否認や追徴課税に直結します。
しっかりと実態を記録し、妥当な金額で支給し続ける――それが“安心して節税”するコツです。
家族に給与を払うとなぜ節税になる?
家族へ給与を出すだけで、①法人側の経費計上 と ②家族側の給与所得控除 がダブルで効き、トータルで税負担がぐっと下がります。

仕組みの流れ
- 法人が家族へ給与を支給
- 家族への給与の支払額はそのまま損金(経費)となる
- 法人税の課税所得が下がり法人税の負担も下がる
- 家族が給与所得者として課税されるが…
- 給与所得控除(65万~195万円) の適用により所得税の課税所得が下がる
- 課税所得は下がるので低い所得税率が適用される
- 所得金額と所得税率の二つの面で所得税の負担が下がる
※給与所得控除は令和7年度にて税制改正が行われています。
令和7年度より改正 国税庁
家族従業員が複数いると、それだけ所得を分散しつつ給与所得控除も人数分を獲得できることもポイントになります。
実際にどれくらいの節税になるのかは状況によるので、法人の利益と家族への給与額を決めて事前にシミュレーションしましょう。
扶養控除・配偶者控除との関係
扶養控除と配偶者控除とは?
所得税&住民税の「家族手当」的な控除
配偶者や子どもなど、年間所得が58万円以下(給与なら年収123万円以下)※の家族を扶養している場合、納税者の課税所得から一定額を差し引けます。
※扶養控除・配偶者控除は令和7年度にて税制改正が行われています。
令和7年度より改正 国税庁
この扶養控除と配偶者控除は、個人事業主と法人で取り扱いが変わります。
個人事業主の場合(専従者給与を選ぶと適用NG)
個人事業主の場合には、扶養控除・配偶者控除と専従者給与はどちらか一方しか適用できません。
家族の取り扱い | 扶養控除・配偶者控除 | 専従者給与の経費計上 |
---|---|---|
家族を代表者の扶養に入れる | 〇 使える | × 給与を払えない |
家族に専従者給与を払う | × 使えない | 〇 経費にできる |
法人の場合(給与と扶養控除を両方適用できる)
法人の場合には、扶養控除・配偶者控除と家族へ給与は両方適用できます。
ただし、家族への給与額によっては代表者は扶養控除・配偶者控除は適用できません。
家族への給与 | 法人側:給与損金 | 代表者側:扶養控除・配偶者控除 |
---|---|---|
123万円以下 | 〇 全額損金 | 〇 控除も適用 |
123万円超 | 〇 全額損金 | × 控除は外れる ※配偶者特別控除の適用の可能性はあり |
法人化すると「給与損金」と「扶養・配偶者控除」を両方適用できる ため、個人事業より柔軟に節税設計ができます。
みなし役員にご用心 ── 家族への給与でよくある落とし穴
家族を従業員にするつもりでも、法人の場合には実態次第で“みなし役員”と判定されることがあります。みなし役員に該当すると役員と同様のルールが適用され、思わぬ税負担が発生する可能性があります。
- みなし役員とは?
- 法律上は「従業員」でも、
- 一定割合の株式を持ち、
- 実質的に経営判断に関わっている――
この2条件を満たす家族は 法人税法上“役員扱い” になります。
- 特に配偶者が株を1株も持っていなくても、夫婦の持株は合算して評価されるため、代表者の配偶者はみなし役員になりやすい点に注意が必要です。。
- 法律上は「従業員」でも、
- みなし役員になるとどうなる?
- 給与は「定期同額」「事前確定届出」など 役員報酬のルール が強制適用。
- 毎月同額で払わないと超過分は損金否認(経費に計上できない)。
- ボーナスを経費にしたい場合は、事業年度開始4か月以内に 税務署へ届出 が必要。
- トラブル防止のポイント
- 決裁権限を文書化
- 誰がどの金額まで決裁できるかを社内規程に明記し、「経営に参加していない」ことを可視化。
- 職務範囲を明確に
- 日常業務(経理、発送など)だけを担当させ、取締役会や重要会議には出席させない。
- 役員扱いの可能性があるなら早めに手当て
- 期首に株主総会を開き、報酬額を決議し議事録を保存。これだけで後の修正コストを大幅に低減できます。
- 決裁権限を文書化
家族を従業員にするつもりでも、実態次第で“みなし役員”と判定されることがあります。
給与設計を柔軟に運用するためにも、「株式の保有割合」と「経営参加の度合い」を事前にチェックし、必要なら役員報酬のルールを適用したうえで書類を整備しておきましょう。
まとめ
専従者給与の複雑なルールに縛られる個人事業と違い、法人化すると家族への給与は「実際に働いていること」と「金額が相場並み」の2条件さえ満たせば全額経費になります。さらに法人では報酬設計の自由度が格段に高く、ご家族の状況に応じて柔軟な対応が可能です。
- 節税メニューが豊富
給与・給与所得控除・扶養控除に加え、賞与や退職金まで組み合わせられるため、個人事業より節税の選択肢が広がります。 - 税率が低く頭打ち
法人税率は一定水準で安定し、利益が増えても個人の累進税率ほど上がらないため、高収益ほどメリットが拡大します。 - 将来設計がしやすい
役員報酬を調整することで社会保険料や会社の資金繰りをコントロールでき、退職金の積立など長期的な資金計画も立てやすくなります。
結論として、家族の力を最大限活かして節税を図るなら、専従者給与の壁に頭を悩ませるより法人成りを選んで家族給与をフル活用する方が、自由度・税率・制度面で遥かに有利です。売上と利益が安定してきた今こそ、法人化を真剣に検討する好機と言えるでしょう。
法人成りを検討する場合にはどれくらい効果がでるか、事前のシミュレーションが必要です。
そろそろ法人成りを検討している個人事業主の方は弊所までお気軽にご相談ください。