資金繰りを強くする!今日から始めるキャッシュフロー経営入門

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売上は伸びているのに預金口座が心もとない。その正体は「入金より支払いが早い」日付のズレかもしれません。キャッシュフロー経営は、資金の「入る・出る・残る」をコントロールして資金繰りを安定させようとする考え方です。この記事では、キャッシュフロー経営について分かりやすく解説しています。

キャッシュフロー経営とは?なぜ重要か

この章では、キャッシュフロー経営とは何かをざっくりと説明します。

キャッシュフロー経営の定義

キャッシュフロー経営とは、資金(キャッシュ)の「入る・出る・残る」を毎月コントロールして資金繰りを安定させようとする考え方です。売上が立っていても、口座に資金がなければ支払いはできません。だから帳簿上の利益ではなく、銀行残高に目を向けます。キャッシュフロー経営では、やることはシンプルです。①今月入ってくるお金(入金)②出ていくお金(支払)③月末に残るお金(残高)を、毎月確認し、足りない兆しがあれば早めに手を打ちます。大事なのは「予測」することです。過去の集計だけでなく、今月・来月の入出金予定を確認しましょう。そうすることで、入金より支払が先に来る日が見え、資金が足りなくなる前に、前受の設定や支払日の調整などの対策を取れます。「気づいたら残高が減っていた」という事態を防げます。

メリットとデメリット

キャッシュフロー経営のメリットは大きく5つあります。第一に、資金繰りの安定化です。入金と支払の予定を前もって把握できるため、資金不足を早めに回避できます。第二に、経営判断の質が向上します。口座残高と将来見込みを前提に、投資や採用の可否を根拠を持って決められます。第三に、経営効率の改善です。回収の前倒しや支払条件の見直し、在庫や固定費の最適化が進み、無駄な出費が減ります。第四に、財務体質の強化です。安定して現金が積み上がり、借入や金利交渉を有利に進められます。第五に、企業価値の向上です。継続的にキャッシュを生む体質は、取引先や金融機関からの信頼につながります。

一方でデメリットもあります。現金重視が強すぎると短期的な成長機会を逃すことがあります。導入初期は資金繰り表の作成や更新に手間がかかります。支払条件の見直し交渉は進め方を誤ると取引先との関係に影響します。コスト削減が続くと従業員のモチベーションが下がるおそれもあります。これらは運用ルールを整え、月次で「現金の安心」と「成長投資」の両立を点検することで小さくできます。

メリット

  • 資金繰りの安定化
  • 経営判断の質の向上
  • 経営効率の改善
  • 財務体質の強化
  • 企業価値の向上

デメリット

  • 短期的な成長機会の制限
  • 業務負担の増加
  • 取引先との関係への影響
  • 従業員のモチベーション低下

中小・起業直後で重要な理由

小さな会社や創業まもない会社は、保有している資金が少なく、黒字であっても資金繰りに困ることが多いです。だからこそ、キャッシュフロー経営が重要になります。帳簿上の利益ではなく、口座の残高と入出金の予定を主役に据えることで、「いつ不足するか」「どれだけ余力があるか」を前もって把握できます。不足が見えれば、前受金の設定や回収強化、支払サイトの見直し、在庫や固定費の圧縮など、先手で対策を打てます。金融機関への説明も具体的になり、いざという時の資金調達力が高まります。資金ショートを避けながら、必要な投資や採用に踏み切れるため、守りと攻めの両立が可能になります。日々の見える化と早めの意思決定こそが、小さな会社を継続的に強くする土台です。

資金をCF計算書で見える化する

キャッシュフロー計算書(CF計算書)で資金の流れを見える化することができます。

キャッシュフローは損益計算書では分からない

損益計算書は、一定期間に「どれだけ売り、どれだけ仕入れたか」をまとめた資料です。つまり、資金が実際に口座へ入る日や出ていく日は追えません。たとえば掛け売りなら売上は計上しても、入金は1〜2か月後になります。一方で、仕入代や家賃、給与などの支払いは先に来ることがあります。こうした「入金より支払いが早い」というタイミングのズレが、黒字にもかかわらず資金不足を招く主因になります。したがって、損益計算書だけでは状況を十分に把握できません。

黒字倒産について、こちらの記事で解説しています。

キャッシュフロー計算書を確認しよう

そこで役に立つのがキャッシュフロー計算書です。資金がなぜ増えたか・減ったかが分かります。損益計算書だけでは見えない「資金の道筋」をつかめるのが最大のメリットです。

キャッシュフロー計算書(CF計算書)は、現金の増減を「営業」「投資」「財務」の3区分で示す資料です。営業CFは本業の稼ぎで現金が増えたか、投資CFは設備購入などで現金を使ったか、財務CFは借入・返済・配当で現金を動かしたかを表します。

  • 営業CF:本業の稼ぎで現金が増えたか
  • 投資CF:設備購入などで現金を使ったか
  • 財務CF:借入・返済・配当で現金を動かしたか

まずは直近決算のCF計算書を作成し、営業CFがプラスかマイナスかを確認します。つぎに、「営業CFプラス+投資CFマイナス(設備投資)+財務CFプラス(借入)」のような型を読み取り、資金が増減した理由を整理します。理由が分かれば、資金不足の原因や改善策を素早く特定できます。銀行や取引先への説明も、数値の根拠を添えて簡潔に伝えられます。月次でも簡易版を作り、試算表とあわせて確認すると効果的です。

キャッシュフロー計算書についてはこちらの記事で解説しています。

キャッシュフローを改善する実践策

この章では、入金を早め、支払いをならし、在庫と固定費を絞る三つの手で、資金を増やす具体策を分かりやすく示します。

0060 具体的な行動 0059 ヒント 0061 ポイント 0062 つまづき 0063 改善策 0064改善策 0065改善策 0065改善策
0067改善策

入金を早くする

売上は「請求した日」ではなく「入金された日」に資金になります。だからこそ、入金を前に寄せるほど資金繰りは安定します。まず、前受金や着手金を請求できるか検討しましょう。早期入金割引も有効です。請求は作業完了当日に発行し、月末一括ではなく案件ごとの請求に切り替えます。回収手段は口座振替や自動引落を検討し、入金の抜けや遅れを減らします。与信管理も欠かせません。新規先には限度額を設定し、遅延が続く先は前金や都度決済に切り替えます。これらを徹底するだけで、売上から入金までの距離が縮まり、日々の残高にゆとりが生まれます。

  • 前受・着手金:前受金、着手金、中間金というように分割請求を検討する。
  • 早期入金割引:値引きを行うなど相手方にメリットを与え早期入金を促す。
  • 請求の即日化:各案件ごとに作業完了時に即日請求する。
  • 回収手段の固定化:口座振替・自動引落を検討する。
  • 与信とルール:新規先は限度額設定、支払遅延が続く先は前金を検討する。

支払いを遅らせ・ならす

出ていくお金は「遅く・一定に」するほど、口座残高の谷が浅くなります。まずは支払条件の見直しです。主要取引先に支払期限の延長を相談し、実績や継続発注、紹介などの見返りを添えて誠実にお願いしましょう。次に、大きな支出は分割払いやリースで月額化し、一括払いを避けます。支払日は月2回(15日と月末など)に集約すると、資金のピークを読みやすくなります。支払手段も見直します。カード払いに切り替えれば翌月出金にずらせます(手数料と与信枠には注意が必要です)。最後に、合意した条件は必ず守ることが信頼の基本です。万一遅れそうな場合は、事前に連絡し、部分入金や支払日の再設定など具体的な代替案を提示します。これらを徹底することで、日々の資金繰りに余裕が生まれます。

  • 支払サイト延長の交渉:主要取引先に支払金言の延長を相談する。その際には実績・継続発注・紹介など見返りを添える。
  • 分割・リース活用:大きな支出は一括払いは避け、分割払いやリースを活用する。
  • 支払日を集約:毎週バラバラの支払いから月2回(15日/月末)などに統一し、資金繰りを読めるようにする。
  • 支払手段の見直し:カード払いで翌月出金にずらす(手数料と与信に注意)。
  • 約束厳守で信頼維持:合意後は絶対に守る。遅延してしまう場合は事前連絡と代替案を用意する。

在庫と固定費を効率化する

資金を増やす確実な方法は、出ていくお金を減らすことです。派手さはありませんが、効果は着実に表れます。まず在庫をABCの3つに分類します。A(回転が速い)は欠品防止に注力し、B(普通)は仕入ロットを縮小し、C(滞留)は値下げして早期に現金化します。次に発注点を見直します。安全在庫を一段下げるだけでも資金に余裕が生まれます。固定費の見直しも重要です。サブスク、通信、保守、倉庫、広告など、利用頻度が少ないものは削減の検討をします。さらに、通信やクラウド、保険は更新月の前に相見積を取り、プラン変更でコストを下げます。ただし、コストの削り過ぎは従業員のモチベーションを下げるため禁物です。売上を生む営業や品質の費用は守り、小さく試し、効果を測り、良ければ広げる進め方を徹底します。

  • 在庫のABC分類:在庫をA(回転速い)B(普通)C(滞留)に分類し、Aは欠品防止だけ注力、Bは仕入ロット縮小、Cは値下げ即現金する。
  • 発注点の見直し:安全在庫を1段下げるだけでも資金が浮く。
  • 固定費の棚卸し:サブスク・通信・保守・倉庫・広告で利用頻度が少ないものは削減を検討する。
  • 相見積とプラン変更:通信・クラウド・保険は更新月前に必ず見直す。

まとめ

本記事では「キャッシュフロー経営」について解説しました。キャッシュフロー経営の狙いは、利益ではなく資金を主役に据え、資金の「入る」・「出る」・「残る」をコントロールすることです。損益計算書だけでは資金のタイミングが見えません。そこで、CF計算書で資金の増減理由をつかみ、資金繰りをチェックします。改善策はシンプルです。前受・着手金や早期入金割引で回収を前倒し、支払サイト延長や分割で出金を後ろへ、在庫と固定費を効率化することです。
当事務所では、試算表などの数字を使った経営サポートを行っています。自社に当てはめるのが難しい、どこから始めるか迷うという方は、一度ご相談ください。