小さな見直しで現金増!売上債権回転日数を短縮する方法
売上はあるのに口座が寂しい。支払いのたびにヒヤッとする——。多くの場合、原因は利益ではなく「回収の遅れ」です。鍵は、売上が現金になるまでの日数(売上債権回転日数)です。この数字をつかみ、縮めるだけで資金繰りはぐっと楽になります。本記事では①意味 ②試算表だけでのかんたんな出し方 ③今日からできる実践策を、わかりやすく解説します。
売上債権回転日数とは
売上はあるのに手元に現金が残らない—原因の9割は「回収の遅れ」です。まずは売上債権回転日数の意味をつかみましょう。
売上が現金になるまでの日数
売上債権回転日数とは、商品やサービスを売ってから実際に入金されるまでの平均日数のことです。短いほど現金化が早く、長いほど資金繰りは苦しくなります。たとえば「月末締め・翌月末入金」なら売上債権回転日数の目安は約30日ですが、請求書の発行遅れや検収・承認に時間がかかると実際の売上債権回転日数は40日、60日へと延びがちです。日数が長いと、仕入・人件費・家賃などを自前資金で先に支払う期間が増え、手元資金は減りやすくなります。逆に日数を縮められれば、同じ売上でもキャッシュは増え、成長投資や借入返済の余力が生まれます。
売上債権回転日数が資金繰りに効く理由
お金の流れは「入るタイミング」と「出るタイミング」の差で決まります。回収が早ければ入金が先に来て、月末の現金残高は安定します。売上債権回転日数についてお金の流れをみてみましょう。
例:毎月の売上=500万円
- 売上債権回転日数(回収までの日数)が60日の場合、
売掛金として約2か月分=1,000万円が滞留します。 - 購入した商品の支払いが30日の場合、1か月分=500万円は先に出ていきます。
- 結果、常時500万円の立替が発生し、別途自前の資金を用意するか借入に頼りやすくなります。
もし売上債権回転日数(回収までの日数)を30日に短縮できれば、滞留は500万円まで圧縮、差額500万円が手元に戻るため、利益を増やさなくてもを改善できます。このように売上債権回転日数は資金繰りに大きな影響を与えます。
売上債権回転日数の計算方法と目安
売上債権回転日数を計算するには、試算表または決算書から「売掛金」と「売上高」を拾うだけです。シンプルな計算式で日数を算出し、回収条件とのズレを判定する目安まで解説します。
試算表で見るのは2つ
売上債権回転日数の計算に使う数字は2つだけです。試算表または決算書から以下の数字を確認しましょう。
① 貸借対照表(B/S):「売掛金残高」
※未収入金や前受金がある場合には売掛金残高に加減しますので一緒に残高を確認しましょう。
② 損益計算書(P/L):「売上高」
計算式にあてはめて算出
売上債権回転日数の計算式はとてもシンプルです。
売上債権回転日数= 売掛金 ÷(売上高 ÷ 期間日数)
※資料から読み取った売上高を1日当たりの売上高に変換するために、読み取った売上高を対応する期間日数で割ります。
例:試算表から読み取った数字が以下の場合
- 売掛金:900万円
- 月の売上高:600万円
1日の売上高を計算してから、売上債権回転日数を計算します。
- 1日売上=600万円 ÷ 30日=20万円
- 回転日数=900万円 ÷ 20万円=45日
目安は「自社の回収条件±α」
売上債権回転日数の判断基準は、他の会社の平均ではなく自社の回収条件です。
- 例:月末締め・翌月末入金 → 目安は約30日
- 計算結果が30日前後=良好
- +10日以上長い=改善余地あり
回収条件±αの考え方
特定の事由が発生するとどうしても回収が遅れる場合がありますので、あらかじめ許容幅(±α)を設定しておいたほうがよいでしょう。
- 例:工期が長い業種、検収・承認が必要な取引は、条件よりやや長めになりがちです。
売上債権回転日数が伸びる悪い原因
運用上のポイントは契約上の条件と現場の運用が一致しているかです。現場の運用に問題があると売上債権回転日数は伸びてしまいます。
具体的な悪い原因
- 請求書の発行が遅い
- 検収書の回収が遅い
- 入金消込が滞る
このような運用だと、契約条件が適正でも、実運用の遅れが積み重なると回転日数は延びます。
売上債権回転日数がぶれる3つの原因
運用は悪くなくても売上債権回転日数がぶれる場合があります。
- 季節要因
繁忙月は売上が大きく、回収は翌月以降にずれるため、一時的に回転日数が長く見えることがあります。 - 単発の大型案件
売上の“山”が一度に立ち、検収・入金のタイミングがずれると、日数が急伸します。 - 勘定科目の混在・基準ズレ
「未収入金」「電子記録債権」「前受金」などの売上債権が混じる、締め日と計上日がずれるなど、経理方法や契約条件で売上債権回転日数がぶれることがあります。
ぶれを除く3つの対策
- 3か月平均で“ならす:季節や単発案件の影響を平準化。
- 異常月は特別要因を注記:案件名・検収遅延・条件変更などを1行で。
- +α:回収不能・長期滞留は別表管理:年齢表(30/60/90日)で継続モニタリング。
売上債権回転日数を縮める3つの実践策
売上債権回転日数は、現場の工夫で確実に縮まります。請求の早期化・回収条件の見直し・事後の対応策の3つのステップで、今月から回収の早期化を実現しましょう。具体的な改善策をみてみましょう。

請求を早く正しく出す
請求が遅いだけで、売上債権回転日数が伸び、手元資金は目減りします。
まずは「締め日 → 請求発行 → 送付 → 入金」の運用時の各所要時間を短縮しましょう。
やることリスト
- 締め日を前倒し、納品・検収が終わり次第即日発行する。
- クラウド請求書で電子発行・電子受領へ切替え、郵送の往復・押印待ちを撤廃する。
- 発注番号の記載漏れ、検収書の添付漏れ等の請求書の記載ミスを防ぐ。
- チェックリストを1枚作成し、担当が替わっても同品質で発行できる仕組みにする。
回収条件を見直す
売上債権回転日数を短縮するには、回収条件の設計の見直しが必須です。
取引相手に回収条件の交渉をしましょう。
- 新規取引の場合 着手金、中間金、残金の3分割の請求を検討する。
- 材料手配が先行する仕事の場合 前金を検討する。
- 継続的なサービスの場合 月額前払い、自動口座振替、カード決済を提案する。
又は、早めのお支払いに特典を用意し、協力をお願いしましょう。
- 早期入金割引を設定する
既存先への導入のコツとしては、価格改定と同時に条件見直しを打診したり、納期短縮や追加価値とセットで提示すると受け入れられやすいです。
回収が遅れる得意先への対応策を決める
いつも回収が遅れる得意先への対応策を事前に決めておきましょう。早期回収は「最初の線引き」と「素早い初動」が重要です。
最初の線引き
- あらかじめ得意先の与信状況を確認しておきましょう。
- 過去の状況から取引上限額と支払サイトを決定しておきましょう。
- 限度超過・遅延が続く場合は、前金・取引停止のルールを明文化しておきましょう。
素早い初動
督促フローをあらかじめ決めておき、実際に回収が遅れている得意先には、すぐに対応しましょう。
- 3日遅れ:定型メール送付
- 7日遅れ:電話連絡
- 14日遅れ:書面通知(※内容証明は最終段階)
まとめ
売上はあるのに現金が足りない――原因の多くは「回収の遅れ」です。本記事では、売上債権回転日数(売上が現金になるまでの日数)を、試算表の売掛金と売上だけで素早く求める方法と、日数を縮める実践策を整理しました。重要なのは継続です。毎月の試算表を必ず作成し、回収状況をみえる化することが大切です。これだけで資金は前倒しされ、借入に頼らない体質に近づきます。まずは今月の試算表で自社の売上債権回転日数を計算してみてください。当事務所では、試算表などの数字を使った経営サポートを行っています。ご興味があればお手元の試算表をご用意のうえ、お気軽にお問い合わせください。