減価償却とは?経営者が知るべき基礎知識と法人税での取扱いの説明

025減価償却とは?経営者が知るべき基礎知識と法人税での取扱いの説明 会計

固定資産を取得した場合には、減価償却という方法で経費計上します。
減価償却は、専門用語のため普段聞きなれない言葉ですが、
会社を経営するうえでは必ずと言っていいほど登場する言葉ですので
ぜひこの記事を読んで考え方を押さえておきましょう。

減価償却とは

減価償却とは、固定資産の取得価額を使用期間の各期に按分して経費にすることです。
そして、この案分された経費のことを減価償却費といいます。

これは、固定資は時の経過(使用)に応じてその価値が減っていき、
減っていった価値の分を毎事業年度の費用として計上するという考え方によります。

例えば、120万円の営業車を購入した場合の減価償却を考えてみましょう。

この営業車を6年使うとします。
営業車を経費にする場合は、購入金額120万円を一括して経費に計上するのではなく、
購入金額120万円を6年間に按分して年20万円ずつ経費にします。

025減価償却費とは 減価償却のイメージ

このように、購入した時に全額を一括して経費にしないで、
使用期間に按分して経費とすることを減価償却といい、
その経費のことを減価償却費(この例では20万円)といいます。

減価償却の目的

減価償却の目的とは、
収入と費用を適切に対応させて会社の実態に合った利益を計算することです。
固定資産は使用期間にわたって収入を得るために使用します。
利益をこの実態に合わせるためには、
固定資産の使用期間にわたって費用計上した方がよいでしょう。

もし仮に、購入した年度に購入額を全額経費にし、
それ以降の使用期間では全く経費にしないとしたら
購入した年度とそれ以降の使用期間において
固定資産を利用して事業を行っている状況は同じなのに
利益に違いが出てきてしまいます。
これは利益を計算する上でおかしいことになります。

例えば120万円で購入した営業車を利用して
毎年30万円の収入を得るとした場合を考えてみましょう。
次の2つのパターンが考えられます。

下段のパターンのほうが営業車の利用実態を反映した利益計算となります。

025減価償却費とは 減価償却の目的

したがって、会社の実態に合った利益を計算するためには、
経費を使用する期間に按分して計上する減価償却が必要となります。

減価償却の対象となる資産について

減価償却の対象となる資産は、時の経過により価値が減っていく固定資産です。
しかし、土地や骨とう品のように時の経過により価値が減らない固定資産は
減価償却の対象とはなりません。

固定資産の具体例

【減価償却の対象となるもの】

  • 建物 事務所、店舗、工場等
  • 付属設備 電気設備、給排水設備、ガス設備等、
  • 構築物
  • 車両運搬具 小型車、貨物自動車、それ他の自動車等
  • 工具 測定工具、検査工具、取付工具、切削工具等
  • 器具備品 家具、電気機器、事務機器等
  • 機械装置 製造業用設備 、飲食店業用設備等
  • 無形固定資産 ソフトウェア、特許権、のれん等

【減価償却の対象とならないもの】

  • 土地
  • 一定の美術品

減価償却費の計算方法

減価償却の方法を具体的にみていきます。
減価償却の方法は何種類かありますが、
代表的なものとして定額法と定率法があります。

ここでは、定額法と定率法について説明します。

定額法

定額法は各期の減価償却費が同額となる計算方法です。

定額法の減価償却費は取得価額に定額法の償却率を掛けて計算します。
取得価額とは固定資産を取得する際に支払った金額のことです。
定額法の償却率は固定資産の耐用年数(使用可能期間)によって決まる割合です。

【計算方法】

減価償却費 = 取得価額 × 定額法償却率

※ 事業年度の途中で使用を開始した場合には月数按分あり

具体的な計算方法をみてみましょう。

【具体例】

営業車を×1年度期首に購入
取得価額 120万円
耐用年数 6年 
定額法償却率0.167

減価償却費の計算は以下のようになります。

年度計算
×1年度1,200,000 × 0.167 = 200,400
×2年度1,200,000 × 0.167 = 200,400
×3年度1,200,000 × 0.167 = 200,400
×4年度1,200,000 × 0.167 = 200,400
×5年度1,200,000 × 0.167 = 200,400
×6年度1,200,000 × 0.167 = 200,400
⇒ 備忘価額1円※を残すため197,999

※備忘価額とは、その固定資産の減価償却がすべて終わってもまだ使用している場合に
 帳簿上に付す名目的な金額のことです。

025減価償却費とは 定額法

定率法

定率法は最初の年度が一番大きく減価償却費を計上でき、
その後の年度では年々減少していく計算方法です。

定率法の減価償却費は未償却残高に一定率を掛けて減価償却費を計算します。
未償却残高とは固定資産の取得価額から今までの減価償却費の合計を控除した金額となります。
定額法償却率はその資産の耐用年数(使用可能期間)によって決まる割合です。
なお、定率法では減価償却費が償却保証額を下回るときは、
改定取得価額×改定償却率により減価償却費を計算します。

【計算方法】

減価償却費(調整前償却額) = 未償却残高 × 定率法償却率 

※1 調整前償却額が償却保証額を下回るときは、以下の計算により減価償却費を計算する。
なお、償却保証額は、取得価額×保証率により計算する。

減価償却費 = 改定取得価額 × 改定償却率

※2 事業年度の途中で使用を開始した場合には月数按分あり

具体的な計算方法をみてみましょう。

【具体例】

営業車を×1年度期首に購入
取得価額 120万円
耐用年数 6年 
定率法償却率 0.333
保証率 0.09911
改定償却率 0.334

減価償却費の計算は以下のようになります。

年度計算
×1年度1,200,000 × 0.333 = 399,600
×2年度 800,400 × 0.333 = 266,533
×3年度533,867 × 0.333 = 177,778
×4年度①調整前償却額 356,089 × 0.333 = 118,578
②償却保証額 1,200,000 × 保証率0.09911 = 118,932
③ ①<②のため 
 改定取得価額 356,089 × 改定償却率 0.334 = 118,934
×5年度改定取得価額 356,089 × 改定償却率 0.334 = 118,934
×6年度改定取得価額 356,089円 × 改定償却率 0.334 = 118,934
⇒ 備忘価額1円を残すため118,221
025減価償却費とは 定率法

法人税での取り扱いについて

法人税の計算においては、課税の公平性の観点から
減価償却について細かいルールが設定されています。

償却方法の選択

法人税においてはどの償却方法によって減価償却費を計算するかは
その固定資産の種類によって決まっています。

固定資産の種類償却方法
建物定額法
建物付属設備、構築物定額法
その他の有形固定資産定額法 定率法※
無形固定資産定額法

※ その他の有形固定資産の法定償却方法(あらかじめ決まっている方法)は定率法です。
  「減価償却資産の償却方法の届出書」をすることによって定額法を選択することができます。

法定耐用年数

法人税においては固定資産の種類によって耐用年数(使用可能期間)
があらかじめ定められています。
これを法定耐用年数といいます。
法定耐用年数によって償却率が決まります。

なぜ耐用年数があらかじめ定められているかというと、
耐用年数を会社の自由に決定できるとしたら意図的に耐用年数を短くし、
減価償却費を過大に計上し利益を圧縮することができるためです。
これを防止するためにどの会社も一律で法定耐用年数を使用することとなります。

法定耐用年数は下記の国税庁のサイトより確認できます。

国税庁 主な減価償却資産の耐用年数表

減価償却の特例

中小企業の場合おいて固定資産は減価償却が原則ですが、
固定資産の使用可能期間と金額によって以下の3つの取り扱いが定められています。
この取り扱いを適用すると、その年度の法人税の負担が下がるため
実務においては必ず検討するものとなります。

  • 少額の減価償却資産の規定
  • 一括償却資産の損金算入の規定
  • 中小事業者等の少額減価償却資産の特例

各取り扱いをまとめると以下の表のようになります。

025減価償却費とは 法人税の取り扱い

少額の減価償却資産の規定

少額の減価償却資産の規定とは、
その資産の使用可能期間が1年未満のもの又は取得価額が10万円未満のものについては
使用開始時に全額経費とすることができるというものです。

例えば、9万円のパソコンを購入した場合には、
使用開始時において全額を経費とすることができます。

一括償却資産の損金算入の規定

一括償却資産の損金算入の規定とは、
取得価額が20万円未満の固定資産について
使用を開始した事業年度から3年間で償却することができるものです。
この固定資産のことを「一括償却資産」といいます。

例えば、×1年度に15万円のパソコンを購入した場合、
この規定を使うとその後3年間にわたって按分して経費計上します。

年度経費の金額
×1年度取得価額15万円×1年÷3年=5万円
×2年度取得価額15万円×1年÷3年=5万円
×3年度取得価額15万円×1年÷3年=5万円

中小事業者等の少額減価償却資産の特例

中小事業者等の少額減価償却資産の特例とは、
取得価額が30万円未満の固定資産について使用を開始した事業年度において
全額経費とすることができます。

ただし、この特例の適用を受ける条件として以下の条件が必要となります。

  • 資本金が1億円以下であること他
  • 青色申告の適用を受けること

また、この特例は固定資産の取得価額の合計が年間300万円以下までしか適用できません。

例えば、×1年度に1台25万円のパソコンを13台購入した場合を見てみます。
12台まではパソコンの取得価額の合計が300万円(1台25万円×12台=300万円)のため、
×1年度に12台分の購入費は全額経費とすることができます。
しかし、残りの13台目のパソコンも含めてこの特例を適用するとしたら、
取得価額の合計が300万円を超えるのでこの特例は適用できません。
13台目のパソコンは通常通り減価償却することとなります。

貸借対照表での固定資産の記載方法について

貸借対照表での固定資産の記載方法は直接法と間接法という2種類あります。

直接法では固定資産は取得価額から今までの減価償却費の合計額を控除した残額を記載します。
この今までの減価償却費の合計額のことを減価償却累計額といいます。

間接法では減価償却資産は取得価額で記載され、
別項目として減価償却累計額がマイナス表示で記載されます。

025減価償却費とは 直接法間接法

まとめ

減価償却について説明しました。
減価償却は固定資産を法定耐用年数にわたって取得価額を按分して経費にする処理方法です。
減価償却をすることによって、収入と費用が対応し、利益を適切に計算することができます。
法人税にあっては、この減価償却をベースにしつつも、
いくつかの規定が設けられています。
それらの規定を適用すると本来ならば減価償却する固定資産について
使用開始した事業年度に全額経費計上することが可能となり、
税負担の面で有利となります。

固定資産の経理処理について、
気になる点や不安な点がある方はぜひ弊所までご相談ください。