変化の激しい現代社会において、企業の成長は不可欠です。
しかし、将来の業績を確実に予測することは難しく、
経営者は常に不確実性と向き合わなければなりません。
そんな中で、成長性分析は、自社の成長を評価する重要なツールです。
本記事では、成長性分析の概要、手法、注意点などを詳しく解説し、
経営者の皆様の成長戦略策定を支援します。
成長性分析を正しく活用することで、企業の将来性を深く理解し、
より確実な成長を実現することが可能となります。
ぜひ、本記事を参考に、成長性分析を経営に活かしてください。
成長性分析の概要
成長性分析は、過去の財務情報に基づいて将来の売上高や利益などの成長率を評価する分析手法です。
経営者や従業員にとって、企業の将来性を判断する上で重要な指標となります。
- 将来の成長可能性の評価
成長性分析は、企業が将来的にどれだけ成長できるかを予測する手がかりとなります。
この分析を通じて、業界内での競争力や新しい市場への展開の可能性などを評価することができます。 - 事業計画の策定と調整
成長性分析を通じて得られた情報は、事業計画の策定や調整に役立ちます。
成長が鈍化している部門や市場を特定し、新しい計画を作成するための基盤となります。 - 競争力の評価
成長性分析を行うことで、企業が提供する商品やサービスがどの程度競争力を持っているかを評価することができます。
高い成長率を商品やサービスは企業を成長させる能力を持っている可能性があります。 - リスク管理
成長性分析は、企業が直面しているリスクや機会を識別するのにも役立ちます。
成長性が悪化している場合、それに対するリスクを早期に察知し、
適切な対策を講じることができます。 - 金融機関の融資判断
金融機関は、企業の成長性を評価するために成長性分析を参考にします。
良好な成長性を示す企業は、融資先としての魅力が高まり、資金調達がしやすくなります。 - 企業内部コミュニケーションの強化
成長性分析を経営層や従業員と共有することで、企業の理解を深め、
共通の目標や方針に向けた協力を促進することができます。
成長性分析で使用する財務諸表
成長性分析では、主に以下の財務諸表を使用します。
- 貸借対照表:企業の資産、負債、純資産の状況を示す財務諸表です。
- 損益計算書:企業の収益と費用、利益の状況を示す財務諸表です。
これらの財務諸表を過去数年分用意することで、年度単位で成長性分析を行うことができます。
また、以下のような切り口で分析するとより効果的な分析をすることができます。
- 四半期単位や月単位で分析する
- 部門ごと、商品サービスごとに分析する
この記事では、事業年度単位での分析を前提に説明します。
成長性分析の手法
成長性分析は、主に貸借対照表や損益計算書を用いて、以下の指標を計算することで行います。
分析手法 | |
---|---|
売上高増加率 | 前年と比較した売上高の増加率 |
営業利益増加率 | 前年と比較した営業利益の増加率 |
経常利益増加率 | 前年と比較した経常利益の増加率 |
総資本増加率 | 前年と比較した総資本の増加率 |
自己資本増加率 | 前年と比較した自己資本の増加率 |
従業員増加率 | 前年と比較した従業員数の増加率 |
以降では、それぞれの分析手法について説明します。
売上高増加率
売上高増加率は、企業の規模の成長性を分析する上で最も基本的な指標の一つです。
前年と比較した売上高の伸び率を表し、企業の売上がどれだけ増加しているのかを
簡単に把握することができます。
- 売上高増加率の計算式
売上高増加率は以下の式で計算できます。
$売上高増加率 = \frac{当期売上高 – 前期売上高}{前期売上高 }\times 100$
数値例:
2024年の売上高が1億円、2023年の売上高が8,000万円の場合、
売上高増加率は以下の通りとなります。
$
\begin{eqnarray}
売上高増加率 &=& \frac{1億円 – 8,000万円}{8,000万}\times 100 \\
&=& 20%
\end{eqnarray}
$
2. 売上高増加率の解釈
売上高増加率は、プラスであれば売上高が前年比で増加していることを示し、
マイナスであれば売上高が前年比で減少していることを示します。
高い売上高増加率は、企業が成長していることを意味し、
低い売上高増加率やマイナスの売上高増加率は、企業の成長が停滞しているか、
あるいは後退していることをいみするため注意が必要です。
営業利益増加率
営業利益増加率は、企業の収益性を測る指標として重要です。
売上高増加率は、企業の規模の成長率を反映しますが、
企業の営業活動によって生み出された利益の増加を
反映しているわけではありません。
そこで営業利益増加率という指標について解説します。
営業利益増加率は、前年と比較した営業利益の伸び率を表し、
企業の営業活動によって生み出された利益がどれだけ増加しているのかを把握することができます。
- 営業利益増加率の計算式
$営業利益増加率 = \frac{当期営業利益 – 前期営業利益}{前期営業利益 }\times 100$
数値例:
2024年の営業利益が1,500万円、2023年の営業利益が1,200万円の場合、
営業利益増加率は以下の通りとなります。
$
\begin{eqnarray}
営業利益増加率 &=& \frac{1,500万円 – 1,200万円}{1,200万円}\times 100 \\
&=& 25%
\end{eqnarray}
$
2. 営業利益増加率の解釈
営業利益増加率は、プラスであれば営業利益が前年比で増加していることを示し、
マイナスであれば営業利益が前年比で減少していることを示します。
高い営業利益増加率は、企業の営業活動の成果が向上していることを意味し、
低い営業利益増加率やマイナスの営業利益増加率は、
企業の営業活動がうまくいっていないことを意味するため、注意が必要です。
経常利益増加率
営業利益増加率は、企業の営業活動の収益性の成長を測る指標として重要ですが、
必ずしも企業活動全体の収益性の向上を反映しているわけではありません。
そこで、経常利益増加率という指標について解説します。
経常利益増加率は、前年と比較した経常利益の伸び率を表し、
企業の本業以外の活動も含めた事業活動全体によって生み出された利益が
どれだけ増加しているのかを把握することができます。
- 経常利益増加率の計算式
$経常利益増加率 = \frac{当期経常利益 – 前期経常利益}{前期経常利益 }\times 100$
数値例:
2024年の経常利益が2,000万円、2023年の経常利益が1,600万円の場合、
経常利益増加率は以下の通りとなります。
$
\begin{eqnarray}
経常利益増加率 &=& \frac{2,000万円 – 1,600万円}{1,600万円}\times 100 \\
&=& 25%
\end{eqnarray}
$
2. 経常利益増加率の解釈
経常利益増加率は、プラスであれば経常利益が前年比で増加していることを示し、
マイナスであれば経常利益が前年比で減少していることを示します。
高い経常利益増加率は、企業全体の活動の収益性が向上していることを意味し、
低い経常利益増加率やマイナスの経常利益増加率は、
企業全体の活動の収益性が悪化していることを意味するため注意が必要です。
総資本増加率
売上高増加率、営業利益増加率、経常利益増加率は、
企業の売上や利益の成長性を分析する指標として重要ですが、
必ずしも企業の成長を支える資産の面が強化されていることを
示しているわけではありません。
そこで、総資本増加率という指標について解説します。
総資本増加率は、前年と比較した総資本(=資産)の伸び率を表し、
企業がどれだけ投資を行っているのかを把握することができます。
- 総資本増加率の計算式
$総資本増加率 = \frac{当期総資本 – 前期総資本}{前期総資本} \times 100 $
数値例:
2024年の総資本が10億円、2023年の総資本が8億円の場合、
総資本増加率は以下の通りとなります。
$
\begin{eqnarray}
総資本増加率 &=& \frac{10億円 – 8億円}{8億円} \times 100 \\
&=& 25 \%
\end{eqnarray}
$
2. 総資本増加率の解釈
総資本増加率は、プラスであれば総資本が前年比で増加していることを示し、
マイナスであれば総資本が前年比で減少していることを示します。
高い総資本増加率は、企業が積極的な投資を行っていることを意味し、
将来の成長を期待させる指標となります。
低い総資本増加率やマイナスの総資本増加率は、企業の投資活動が停滞しているか、
あるいは縮小していることを意味するため注意が必要です。
純資産増加率
総資本増加率は、総資本の成長性を示しますが、同時に負債も増加している可能性があるため
必ずしも正味の企業の財産である純資産の成長性を示しているわけではありません。
そこで今回は、純資産増加率という指標について解説します。
純資産増加率は、前年と比較した純資産の伸び率を表し、
企業が純資産を用いてどれだけ成長しているのかを把握することができます。
1. 純資産増加率の計算式
$純資産増加率 = \frac{当期純資産 – 前期純資産}{前期純資産} \times 100 $
数値例:
2024年の純資産が6億円、2023年の純資産が5億円の場合、
純資産増加率は以下の通りとなります。
$
\begin{eqnarray}
純資産増加率 &=& \frac{6億円 – 5億円}{5億円} \times 100 \\
&=& 20 \%
\end{eqnarray}
$
2. 純資産増加率の解釈
純資産増加率は、プラスであれば純資産が前年比で増加していることを示し、
マイナスであれば純資産が前年比で減少していることを示します。
高い純資産増加率は、企業が純資産を用いて積極的に成長していることを意味し、
株主にとって魅力的な指標となります。
低い純資産増加率やマイナスの純資産増加率は、
企業の財務体質が脆弱化していることを意味するため注意が必要です。
従業員増加率
従業員増加率は、企業の成長性を従業員数の面から分析する方法です。
売上高増加率、営業利益増加率、経常利益増加率、総資本増加率、純資産増加率は、
企業の成長性を財務面から分析する指標として重要ですが、
必ずしも企業の成長を支える人材が確保できていることを示しているわけではありません。
そこで従業員増加率という指標について解説します。
従業員増加率は、前年と比較した従業員数の伸び率を表し、
企業がどれだけ人材を獲得しているのかを把握することができます。
- 従業員増加率の計算式
$従業員増加率 = \frac{当期従業員数 – 前期従業員数}{ 前期従業員数} \times 100 $
数値例:
2024年の従業員数が1,000人、2023年の従業員数が800人の場合、
従業員増加率は以下の通りとなります。
$
\begin{eqnarray}
従業員増加率 &=& \frac{1,000人 – 800人}{ 800人} \times 100 \\
&=& 25 \%
\end{eqnarray}
$
2. 従業員増加率の解釈
従業員増加率は、プラスであれば従業員数が前年比で増加していることを示し、
マイナスであれば従業員数が前年比で減少していることを示します。
高い従業員増加率は、企業が事業拡大のために積極的に人材を獲得していることを意味し、
将来の成長を期待させる指標となります。
低い従業員増加率やマイナスの従業員増加率は、企業の人材確保が停滞しているか、
あるいは人員削減を行っていることを意味するため注意が必要です。
成長性分析の注意点
1. 単一の指標だけで判断しない
成長性分析には、売上高増加率、営業利益増加率、経常利益増加率、
総資本増加率、純資産増加率、従業員増加率など、様々な指標があります。
単一の指標だけで判断するのではなく、複数の指標を組み合わせることで、
より客観的な評価が可能となります。
例えば、売上増加率が30%だったとしても、営業利益増加率がマイナスだとしたら、
企業規模が大きくなっているものの、収益性が下がっていることになり、
もしかしたら売上獲得のために採算度外視の営業活動を行っているのかもしれません。
そのため、指標は一つだけ見るのではなく、複数の指標を見比べて評価しましょう。
2. 過去の実績だけでなく、将来の見通しも考慮する
成長性分析は、過去の財務データに基づいて行われますが、
過去の業績が必ずしも将来の業績を保証するものではありません。
企業の将来の成長見通しを考慮した分析を行う必要があります。
3. 業界や市場環境を考慮する
企業の成長性は、業界や市場環境によって大きく左右されます。
成長性分析を行う際には、企業が置かれている業界や市場環境を考慮する必要があります。
例えば、自社の売上増加率が20%で良好だと思っていても、
業界の売上増加率が30%だとしたら、同業他社に比べて成長速度が遅いことになってしまいます。
そのため、指標を見る際には業界や市場環境も併せて確認しましょう。
4. 財務状況だけでなく、定性的な情報も考慮する
成長性分析は、財務データに基づいて行われますが、
財務状況だけでなく、定性的な情報も考慮することで、
より深い分析が可能となります。
例えば、企業の経営陣の能力、新製品・サービスの開発状況、
顧客満足度など、定性的な情報も分析に取り入れる必要があります。
5. 継続的に分析を行う
成長性分析は、単発で行うのではなく、継続的に行うことで、
企業の成長性の変化を把握することができます。
まとめ
成長性分析について説明しました。
成長性分析は、企業の成長を多面的に分析する方法です。
経営者にとっては成長性分析を活用することで、
将来の成長可能性の評価、
事業計画の策定と調整、
競争力の評価、
リスク管理、
金融機関の融資判断、
企業内部コミュニケーションの強化
といったことに活用することができます。
成長性分析を行い、自社の成長を客観的に評価することで今後の経営にぜひ役立ててください。
成長性分析といった決算書を使った財務分析にご興味がある方は、
ぜひ弊社までお問い合わせください。