安全性分析とは?経営者が知っておきたい基本知識の説明【計算例付き】

027安全性分析とは? 経営者が知っておきたい基本知識の説明【計算例付き】 会計

経営において財務の安全性を把握することは企業を存続させるために非常に重要です。
その中で、安全性分析は、債務の支払い能力や財務体質の健全性を評価し、
リスクを早期に察知するための重要な指標となります。

本記事では、経営者向けに安全性分析について分かりやすく解説します。

安全性分析とは

安全性分析は、企業の債務の支払い能力や財務体質の健全性を分析する分析手法です。
貸借対照表と損益計算書を用いて、以下の指標を算出することで企業の財務体質を判断します。

  • 流動比率
  • 当座比率
  • 自己資本比率
  • 固定比率
  • 固定長期適合率
  • インタレストカバレッジレシオ

これらの指標を分析することで、経営リスクを早期に発見し、適切な対策を講じることができます。
また、金融機関へ財務の健全性をアピールすることで金融機関からの信頼を獲得することができます。

安全性分析の5つの指標

安全性分析の5つの指標を紹介します。

流動比率

流動比率は、短期的な支払い能力を評価するための財務指標です。
企業が現金化しやすい流動資産を利用して短期的な債務である流動負債を返済できるかを示します。

流動比率は次の式で計算されます。

流動比率(%) = 流動資産 ÷ 流動負債​ × 100

ここで、

  • 流動資産は現金、売掛金、棚卸資産など、1年以内に現金化できる資産を指します。
  • 流動負債は1年以内に支払う必要がある債務を指します。

一般的に流動比率が100%以上であれば、流動資産は流動負債をカバーできると言えます。
つまり、短期的な支払い能力があると判断できます。
しかし、この数値が高すぎると、資金がダブついているため効率的に利用されていない
可能性があります。

当座比率

当座比率は、短期的な支払い能力を示す指標で、
流動比率よりもより厳密に短期的な支払い能力を表しています。
当座比率は、以下のように計算されます。

当座比率(%) = 当座資産 ÷ 流動負債​ × 100

ここで、

  • 当座資産は、現金、預金、手形、売掛金など、すぐに現金化できる資産を指します。
    棚卸資産はすぐに換金できない可能性があるため当座資産からは除かれます。
  • 流動負債は、1年以内に支払う必要がある負債を指します。

一般的に当座比率が100%以上であれば、当座資産だけで流動負債を全て賄うことができ、
短期的な財政状況は安定していると言えます。
しかし、流動比率と同じように、この数値が高すぎると資金を効率的に利用されていない
可能性があります。

自己資本比率

自己資本比率は、企業の資本全体の中で返済の必要がない自己資本が
どの程度占めている割合のことで財務体質の健全性を示しています。
自己資本比率は以下のように計算されます。

自己資本比率(%)= 自己資本 ÷ 総資本 ​× 100

ここで、

  • 自己資本は、資本金、資本剰余金、利益剰余金などを合計したものを指します。
  • 総資本は、自己資本と負債を合計したものを指します。

それぞれの業界や企業の状況により、理想的な自己資本比率は異なりますが、
自己資本比率が高いほど、自己資本による資金調達が多く借り入れに依存しない健全な
財務体質と言えます。
自己資本比率が低すぎると、借入金の返済負担が大きくなり財務リスクが高まる
可能性があります。
一方で、自己資本比率が高すぎると、レバレッジ(借入金による運用効果)を十分に活用
できていない可能性があります。

固定比率

固定比率は、固定資産が、返済不要な自己資本によりどれだけまかなえているかを示す指標です。
長期的な安全性を見る指標の一つです。
固定比率は以下のように計算されます。

固定比率(%) = 固定資産 ÷ 自己資本 ​× 100

ここで、

  • 固定資産は、土地、建物、機械、設備など、長期間使用するための資産を指します。
  • 自己資本は、資本金、資本剰余金、利益剰余金などを指します。

一般的に固定資産は返済不要な自己資本によりまかなえていることが望ましいため
固定比率は低いほど財務的な安定性が高いといえます。
特に固定比率が100%よりも低い場合は、借入に依らず自己資本によって固定資産が
まかなえているため財務的な安全性は高いと言えます。
一方で固定比率が100%よりも高い場合には、自己資本に加えて借入も使って固定資産を
まかなうこととなるため、財務的な安全性が低い可能性があります。

固定長期適合率

固定長期適合率は、長期的な安全性を示す指標です。
固定資産が、自己資本に加えて返済期間の長い固定負債もあわせて
どれだけまかなえているかを示します。
つまり、固定長期適合率は固定比率よりもより広い視点で長期的な安全性を示しています。
固定長期適合率は以下のように計算されます。

固定長期適合率(%) = 固定資産 ÷ (自己資本 + 固定負債) ​× 100

ここで、

  • 固定資産は、土地、建物、機械、設備など、長期間使用するための資産を指します。
  • 自己資本は、資本金、資本剰余金、利益剰余金などを合計したものを指します。
  • 固定負債は、返済まで1年以上の期間のある負債を指します。

一般的に固定長期適合率は低いほど財務的な安定性が高いといえます。
特に固定長期適合率が100%よりも低い場合は、
自己資本及び返済期間の長い固定負債によってまかなえているため
財務的な安全性は高いと言えます。
一方で固定長期適合率が100%よりも高い場合には、
自己資本及び返済期間の長い固定負債に加えて、
返済期間の短い流動負債も使って固定資産を取得していることになるため、
財務的な安全性が低い可能性があります。

インタレストカバレッジレシオ

インタレストカバレッジレシオは、企業の利払い能力を評価するための指標で、
以下のように計算されます。

インタレストカバレッジレシオ = (営業利益 + 受取利息・配当金) ÷ 利息費用

ここで、

  • 営業利益は、売上高から売上原価と販売費及び一般管理費を差し引いたものを指します。
  • 受取利息・配当金は、預金の預入や株式への投資により受け取る利息や配当金を指します
  • 利息費用は、借入金や社債などの利息負担を指します

一般的にインタレストカバレッジレシオが高いほど、利息費用に対する利益の余裕が大きく、
利払い能力が高いと言えます。
逆に、この比率が低いと、利払い能力が低いため利息費用の負担が重くなり、
財務リスクが高まる可能性があります。
特にこの比率が1倍を下回る場合には、利益で利息費用をまかなえていないことを示すため、
短期的な資金繰りにリスクがあるかもしれません。

安全性分析の計算例

例えばある会社の貸借対照表と損益計算書が以下の通りの場合の安全性分析指標を算出してみましょう。

027安全性分析 計算例
  1. 流動比率 = 流動資産 ÷ 流動負債 = 5000万円 ÷ 3000万円 = 1.67 ⇒ 167%
  2. 当座比率 = (流動資産 – 在庫)÷ 流動負債 = (5000万円 – 200万円) ÷ 3000万円 = 1.6 ⇒ 160%
  3. 自己資本比率 = 自己資本 ÷ 総資産 = 3000万円 ÷ 7000万円 = 0.43 ⇒ 43%
  4. 固定比率 = 固定資産 ÷ 自己資本 = 2000万円 ÷ 3000万円 = 0.67 ⇒ 67%
  5. 固定長期適合率 = 固定資産 ÷ (自己資本+固定負債)= 2000万円 ÷ 4000万円 = 0.5 ⇒ 50%
  6. インタレストカバレッジレシオ = (営業利益 + 受取利息・配当金) ÷ 支払利息 = (1000万円 + 50万円) ÷ 200万円 = 5.25倍

安全性分析の注意点

安全性分析は企業の財務状況を評価するための重要なツールですが、以下のような注意点があります。

  1. 一部の指標に過度に依存しない
    各種の指標はそれぞれ異なる視点から企業の財務状況を評価します。
    一部の指標だけに依存すると、全体像を見落とす可能性があります。
    全ての重要な指標をバランス良く考慮することが重要です。
  2. 業界平均や同業他社を考慮する
    指標の数字は業界や市場環境によって大きく異なる場合があります。
    業界平均や同業他社と比較したり、市場環境を考慮に入れたりすることが重要です。
  3. 一時的な要素を考慮する
    指標の数字は一時的な要素によって大きく影響を受ける場合があります。
    例えば、特別な利益や損失、季節性など一時的な要素を考慮に入れることが重要です。
  4. 数値だけでなく、質的な要素も考慮する
    指標は数値的な情報を提供しますが、企業の財務状況を評価するためには、経営陣の質、企業戦略、市場の競争状況など、数値で表されない質的な要素も考慮する必要があります。

    以上のように、安全性分析を行う際には、これらの注意点を考慮することが重要です。
    これらの指標は企業の財務状況を評価するための一つの視点であり、
    経営判断には十分な注意が必要です。

安全性分析の経営への活用方法

安全性分析で算出した指標は、以下の様に経営に活用することができます。

安全性分析は、企業の財務状況を評価し、経営の健全性を判断するための重要なツールです。
以下に、その活用方法をいくつか示します。

  1. リスク管理
    各種の比率を計算することで、企業の財務リスクを評価することができます。
    例えば、流動比率や当座比率が低いと、短期的な資金繰りに問題がある可能性があります。
    また、自己資本比率が低いと、長期的な財務安定性に問題がある可能性があります。
  2. 融資判断
    金融機関は、企業の財務分析を行い、融資判断を下します。
    例えば、自己資本比率やインタレストカバレッジレシオが高い企業は、
    財務的に安定していると判断され、融資の対象となりやすいです。
  3. 経営戦略の策定
    安全性分析を行うことで、企業の強みと弱みを明らかにし、
    それを基に経営戦略を策定することができます。
    例えば、固定比率が高い場合、固定資産への投資を見直すなどの戦略を
    考えることができます。
  4. 業績評価
    安全性分析は、企業の財務業績を評価するための一つの指標となります。
    これにより、経営者は自社の業績を客観的に評価し、改善策を考えることができます。

まとめ

安全性分析について説明しました。
安全性分析は、企業の財務状況の安全性を多角的に評価し、
潜在的な財務リスクを早期に察知するための重要なツールです。
経営者は、安全性分析の各種指標を活用することで、
リスク管理、経営戦略の策定、財務体質の改善、金融機関への説明
などに役立てることができます。

本記事が、経営者にとって安全性分析の重要性を理解し、活用するための参考になれば幸いです.。
安全性分析に興味を持たれた方がぜひ弊所までお問い合わせください。