債務償還年数とは? 経営者ならば知っておきたい基本的な知識の説明

031債務償還年数とは? 経営者ならば知っておきたい基本的な知識の説明 会計

債務償還年数は、企業の借入金の返済能力を分析する重要な指標の一つです。
多くの企業は金融機関から融資を受けており、
債務償還期間が長引いているケースも少なくありません。
債務償返期間が長引くと、資金繰りの悪化したり、金利負担の増加したりと、
企業成長を阻害する要因となります。
そのため、経営においては、債務償還期間を正しく知り、
常に改善していくことが大切になります。

この記事では、経営者向けに債務償還年数とは何かといった基本的な事項を説明します。

債務償還年数とは

債務償還年数は、企業が現状の返済能力で借入金を完済するのに何年かかるかを示す指標です。
そのため、とくに金融機関との関係で重要になる指標です。

具体的には債務償還年数でわかることは以下のとおりです。

・返済能力

借入金の返済能力が分かります。
債務償還年数が短いほど、企業は借入金を早く返済することができます。
そのため、返済能力が高いことを意味し、金融機関からの評価がプラスになります。
逆に、債務償還年数が長いほど、債務の返済に必要な期間が長引きます。
財務的には不安定で返済能力が低いことを意味し、金融機関の評価がマイナスになります。

・追加融資の余力

新たな借入を検討する際の返済期間が見積もることができます。
つまり、現状の返済能力による追加融資の余力が分かります。
見積った債務償還期間が短いほど、金融機関の評価が高いため追加融資の余力があります。
逆に、見積った債務償還期間が長いほど、現状の返済能力を超えた借入となるため、
金融機関の評価が低く、追加融資の余力が小さくなります。

債務償還年数の計算方法

債務償還年数は、以下の式で計算されます。

債務償還年数 = 借入金 ÷ 毎年のキャッシュフロー

ただし、上記の計算式は基本の形であり、実務上は金融機関の判断により
いくつかのパターンがあります。

各項目についてみていきます。

・借入金について

借入金とは、金融機関からの借入金のことです。
正確には有利子負債といいます。
借入金には貸借対照表の負債に計上される短期借入金、長期借入金、社債があります。

債務償還期間の計算にあたっては、金融機関の判断により
有利子負債の金額から以下の項目を差し引くことがあります。

差し引く項目理由
運転資金企業が継続する限り、常に借り換えするため返済しなくても良いと考えるため
現預金現預金は有利子負債の返済原資に充てることが可能であるため

・毎年のキャッシュフローについて

キャッシュフローは、簡易的に以下のような計算式で算定されます。
これは、正確なキャッシュフローを計算するのは大変なため、損益計算書から簡易的に計算する方法です。

簡易キャッシュフロー = 経常利益 - 法人税等 + 減価償却費

より厳密に計算する場合には、フリーキャッシュフローを用いる方法があります。
フリーキャッシュフローは、企業が自由に使える資金のことです。

フリーキャッシュフローは以下のような計算式で算定されます。

フリーキャッシュフロー = 経常利益 – 法人税等 + 減価償却費 – 設備投資 – 正常運転資金増減

設備投資額は、設備投資に要する資金のことです。
正常運転資金増減とは、利益とキャッシュフローの金額のずれを調整するための項目です。

債務償還年数の計算例

具体的な計算例を見ていきましょう。

計算例①

ある企業の決算書によると、以下の情報が得られました。

有利子負債: 1000万円
経常利益: 250万円
法人税等: 75万円
減価償却費: 25万円

上記の情報を用いて、現状の債務償還年数を計算すると、以下のようになります。

債務償還年数 = 1000万円 ÷ (250万円 ー 75万円 + 25万円 ) 

       =  5年

つまり、現状の返済能力では返済に最短で5年かかるということを意味します。

計算例②

ある企業が融資を受けて、新しく設備を購入したいと考えています。
設備購入後には毎年のキャッシュフローが増加すると想定しています。
設備投資後の債務償還年数を計算してみます。

現状の借入金: 500万円
必要な融資額: 2000万円
設備投資後の毎年のキャッシュフロー: 200万円

設備投資後の債務償還年数 = 500万円 + 2000万円 ÷ 200万円 

= 12.5年

もし、新しい融資を受けた際の金融機関から提示された返済期間が 12.5年よりも短いのであれば
今後の返済が厳しくなる可能性があります。

債務償還年数の改善方法

債務償還年数を改善するには、以下の方法が考えられます。

  • 借入金を減らす
  • 毎年のキャッシュフローを増やす

借入金を減らす

借入金を繰り上げ返済することで借入金残高が減り、債務償還年数を短縮することができます。
ただし、その分、資金が減り、かえって財務の健全性を損なう可能性があるため望ましい方法とは言えません。
資金が有り余っている場合にのみ有効な方法でしょう。

毎年のキャッシュフローを増やす

毎年のキャッシュフローを増やすことで、借入金の返済原資が増えるため、
債務償還期間を短縮することができます。
借入金を減らす方法に比べると、こちらの方法が良いでしょう。

毎年のキャッシュフローを増やすには、利益を増やすことが重要です。

利益を増やす方法には、売上を増やす、粗利益率を向上させる、
経費を減らすといったことが必要となります。

利益を増やす方法
売上を増やす方法新規顧客の獲得  既存顧客の囲い込み  販売促進活動の強化
粗利益率を向上させる方法原価の見直し  高付加価値商品の販売
経費を削減する方法 無駄な経費の洗い出し 効率化

その他の改善方法

債務償還年数の計算において、運転資金増減額を考慮するフリーキャッシュフローを用いる場合には
以下の方法によっても、フリーキャッシュフローが増えて債務償還年数は改善します。

※以下で説明する方法は、運転資金増減を考慮しない簡易キャッシュフローによる債務償還年数の計算には影響ないので注意。

売上債権回収サイトを改善する

売上債権回収サイトを改善することで、
正味運転資金が減少し、フリーキャッシュフローが増加します。

売上債権回収サイトとは、商品を販売してから代金を回収するまでの期間を指します。
回収サイトを短くすることで、早期に現金収入を得ることができます。

売上債権回収サイトを改善する方法は以下のものがあります。

・回収サイトを短く設定する
 契約時に、可能な限り短い回収サイトを設定する。

請求書の発行タイミングを早める 
 商品・サービスの提供後すぐに請求書を発行する。

回収管理を徹底する 
 顧客ごとに回収状況を把握し、定期的に督促を行う。

ファクタリングを活用する
 売上債権の回収が長期化する場合には金融機関に売却することで、
 早期に現金化することができます。

仕入債務支払サイトを改善する

支払債務支払いサイトを改善することで、
正味運転資金が減少し、フリーキャッシュフローが増加します。

仕入債務支払サイトとは、仕入代金を支払うまでの期間を指します。
支払サイトを長くすることで、手元資金を確保することができます。

仕入債務支払サイトを改善する方法は以下のものがあります。

・支払サイト交渉を行う
  取引先と支払サイトについて交渉し、可能な限り長くする。 
  他の調達先を探すことで、支払サイト交渉の交渉力を高める。

・早期支払割引制度を活用する
 早めに支払いすることで、割引を受けられる制度を活用する。

在庫管理の徹底

在庫管理を徹底し、過剰在庫をなくすことができれば正味運転資金が減り、
フリーキャッシュフローが増加します。

また、適正在庫を徹底できれば、販売機会のロスを避けることができ、
また余分な在庫の管理コストも削減できるので利益に貢献します。

適正在庫を徹底するためには、以下の二つが大切です。

  • 適正在庫量を把握しておくことと
  • 棚卸しをしっかりと行うこと

その他の方法

帳簿上の改善策ですが、通常であれば、消耗品費等で全額経費計上できる備品等を
あえて固定資産に計上することで毎年のキャッシュフローを計算上増やすことができます。

・具体例

ある会社において25万円の備品を購入した場合を考えます。
この備品は消耗品費として全額経費計上してもよいし、
固定資産として耐用年数5年で毎年5万円ずつ減価償却計上してもよいです。

消耗品費とした場合と減価償却費とした場合で、簡易キャッシュフローが以下のように計算されます。

【前提】
備品考慮前の利益:100万円

このように、簡易キャッシュフローは減価償却費と会計処理した方が大きくなるため
この方法により債務償還年数を小さくすることができます。

まとめ

債務償還期間について説明しました。

経営者の方には、金融機関の評価を重要視している方がたくさんいると思います。
そのなかで、債務償還年数は、企業の財務状況を判断する重要な指標であり、
自社の債務の返済能力を直接把握することができます。
債務償還期間の意味を知り、改善策を講じることで、
財務体質を強化し、金融機関との関係を良くすることができます。

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