効率性分析とは?経営者の意思決定を支援する4つの指標の基礎知識

00300効率性分析とは?経営者の意思決定を支援する4つの指標の基礎知識 会計

経営者向けに決算書を用いた効率性分析について解説します。
効率性分析とは、企業がどれだけ資本を効率的に使って事業活動を行っているか分析することです。
この記事では、効率性分析の指標の解説と数値例を用いて、経営の効率性を深く掘り下げます。
決算書を読み解き、企業の強みや弱みを発見し、
企業の事業活動の効率性を確立するためのお役に立てれば幸いです。

効率性分析とは

効率性分析とは、企業が資産や資本をどれだけ効率的に運用し、
事業活動をしているかを分析する手法です。
売上高などの決算書の数字を活用し、以下の指標を算出することで、
企業の経営効率を分析します。

効率性分析は、主に以下の用途に用いられます。

資本の効率性が分かる
効率性分析は、総資本回転率、売上債権回転率、仕入債務回転率、
棚卸資産回転率といった指標を用いて、企業の財務状況を分析します。
これらの指標は、企業が投下した資源をどれだけ効率的に運用し、
利益を生み出しているかを表します。

金融機関への説明資料になる
効率性分析の結果は、金融機関に対して、企業の経営状況を説明する際に役立ちます。
決算書だけでは読み取れない、経営の効率性の情報を提供することで、
企業の実態をより明確に伝えることができます。

経営戦略の策定や意思決定に役立つ
効率性分析は経営戦略の策定や意思決定に役立ちます。
企業の強みや弱みを把握し、戦略的な方針や施策を検討する際に重要な情報源となります。
効率性分析を通じて得られたデータや洞察を活用することで、
より効果的な経営戦略を展開することが可能となります。

企業内部コミュニケーションに役立つ
具体的な数値に基づく分析結果は、感覚的な判断ではなく、
客観的なデータに基づくため、経営層や従業員と共有することで、
共通の目標や方針に向けた協力を促進することができます。

4つの効率性分析の指標

効率性分析は、貸借対照表や損益計算書の数字を用いて、以下の4つの指標を用いて行います。

指標の種類
総資本回転率総資本がどれだけ売上を生み出してるか
売上債権回転率売上債権をどれだけ早く回収しているか
棚卸資産回転率商品等をどれだけ早く販売できているか
仕入債務回転率仕入代金をどれだけ早く支払っているか

総資本回転率

総資本回転率とは、企業が投下した資本を1年間でどれだけ効率的に運用し、
売上を生みだしたかを表す指標です。
高い総資本回転率は、少ない資本で多くの売上を生み出していることを示し、
資本効率性の高さを示します。

計算式

総資本回転率は、以下の式で計算できます。

総資本回転率 = 売上高 ÷ 総資本

  • 売上高:1年間の売上高
  • 総資本:期末の総資本(資産又は負債 + 自己資本)
         ※総資本は期首残高と期末残高の平均を使うこともあります。

・指標の解釈の仕方

総資本回転率は、以下のように解釈することができます。

総資本回転率が高い場合は、企業が総資本を効率的に使っていると言えます。
つまり、少ない資本でより多くの売上を生み出しているということです。
これは、企業が資本を有効に活用していると解釈できます。

反対に総資本回転率が低い場合は、企業が総資本をあまり効率的に使っていないと言えます。
つまり、同じ売上を生み出すためにより多くの資本が必要ということです。
これは、企業が資本を十分に活用できていないと解釈できます。

・ 数値例

以下は、年間売上高10億円、総資本5億円の企業の総資本回転率の計算例です。

$
\begin{eqnarray}
総資本回転率 &=& 10億円 ÷ 5億円 \\
&=& 2.0回
\end{eqnarray}
$

売上債権回転率

売上債権回転率とは、企業が商品やサービスを販売した際に発生する売上債権を、
1年間でどれだけ効率的に回収できているかを表す指標です。
売上債権回転率が高いほど、売上債権の回収が早く、資金繰りが良好であることを示します。

・計算式

売上債権回転率は、以下の式で計算できます。

売上債権回転率 = 売上高 ÷ 売上債権

  • 売上高:1年間の売上高
  • 売上債権残高:期末の売上債権残高 
    ※売上債権残高は期首残高と期末残高の平均を使うこともあります。

・指標の解釈の仕方

売上債権回転率は、以下のように解釈することができます。

売上債権回転率が高い場合は、企業が売上債権を迅速に回収していることを示します。
これは、顧客からの売上債権が早期に支払われており、
企業の資金繰りが良好であることを意味します。
高い売上債権回転率は、企業の経営効率が高いことを示す指標となります。

売上債権回転率が低い場合は、企業が売上債権を回収するまでの期間が長いことを示します。
これは、顧客が支払いを延滞している可能性があるため、
企業の資金繰りが遅延していることを意味します。
低い売上債権回転率は、企業が支払いを受け取るまでのリスクや負担が高いことを示し、
経営効率の改善が求められる場合があります。

・数値例

以下は、年間売上高10億円、売上債権残高2億円の企業の売上債権回転率の計算例です。

$
\begin{eqnarray}
売上債権回転率 &=& 10億円 ÷ 2億円 \\
&=& 5.0回
\end{eqnarray}
$

棚卸資産回転率

棚卸資産回転率は、企業が保有している商品や製品を、
1年間でどれだけ効率的に販売しているかを表す指標です。
高い棚卸資産回転率は、商品の販売速度が速く、在庫管理が効率的であることを示します。

計算式

棚卸資産回転率には、売上高ベースと原価ベースの2種類があります。

①売上高ベースの棚卸資産回転率

売上高ベースの棚卸資産回転率は、売上高を棚卸資産残高で割った値です。

棚卸資産回転率(売上高ベース) = 売上高 ÷ 棚卸資産

②原価ベースの棚卸資産回転率

原価ベースの棚卸資産回転率は、売上原価を棚卸資産で割った値です。

棚卸資産回転率 (原価ベース)= 売上原価 ÷ 棚卸資産

  • 売上高:1年間の売上高
  • 棚卸資産:期末の棚卸資産残高 
    ※棚卸資産残高は期首残高と期末残高の平均を使うこともあります。

・指標の解釈の仕方

棚卸資産回転率は、以下のように解釈することができます。

棚卸資産回転率が高い場合は、商品の回転(販売)速度が速く、在庫管理が効率的であると言えます。

棚卸資産回転率が低い場合は、商品の回転速度が遅く、在庫過剰や資金繰りが悪化している可能性があります。

売上高ベースの棚卸資産回転率は、棚卸資産の仕入れ値に上乗せした利益分が計算に考慮されるため、
棚卸資産の純粋な回転率を表さない可能性があります。
一方、原価ベースの棚卸資産回転率は、純粋な棚卸資産の回転率を表します。

・数値例

以下は、年間売上高10億円、売上原価8億円、期末棚卸資産残高1億円の企業の棚卸資産回転率の計算例です。

・売上高ベースの棚卸資産回転率

$
\begin{eqnarray}
棚卸資産回転率(売上高ベース ) &=& 10億円 ÷ 1億円 \\
&=& 10.0回
\end{eqnarray}
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・原価ベースの棚卸資産回転率

$
\begin{eqnarray}
棚卸資産回転率(原価ベース) &=& 8億円 ÷ 1億円 \\
&=& 8.0回
\end{eqnarray}
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仕入債務回転率

仕入債務回転率とは、企業が仕入れた材料や商品を、
1年間でどれだけ効率的に支払っているかを表す指標です。
高い仕入債務回転率は、支払いを迅速に行い、資金繰りが良好であることを示します。

・計算式

仕入債務回転率には、原価ベースと仕入ベースの2種類があります。

①原価ベースの仕入債務回転率

原価ベースの仕入債務回転率は、売上原価を仕入債務で割った値です。

仕入債務回転率(原価ベース) = 売上原価 ÷ 仕入債務

  • 売上原価:1年間の売上原価
  • 仕入債務:期末の仕入債務残高 
    ※仕入債務残高は期首残高と期末残高の平均を使うこともあります。

②仕入ベースの仕入債務回転率

仕入ベースの仕入債務回転率は、仕入高を仕入債務で割った値です。

仕入債務回転率(仕入ベース) = 仕入高 ÷ 仕入債務

  • 仕入高:1年間の仕入高
  • 仕入債務:期末の仕入債務残高 
    ※仕入債務残高は期首残高と期末残高の平均を使うこともあります。

・指標の解釈の仕方

仕入債務回転率は、以下のように解釈することができます。

仕入債務回転率が高い場合、企業が仕入れた商品やサービスの支払債務を
迅速に支払いを行っていることを示します。
これは、支払い義務を適切に履行していることを意味します。
高い仕入債務回転率は、企業の信用力や信頼性を高めることができます。

仕入債務回転率が低い場合、企業が仕入れた商品やサービスの支払債務の
支払いを滞留している可能性があることを示します。
これは、企業のキャッシュフローが適切に管理されていない可能性があります。
低い仕入債務回転率は、企業の信用力や信頼性に影響を与えることがあります。

原価ベースと仕入ベースの違いについて、仕入れベースは、年間の仕入高を分析対象とするため、
在庫の増減の影響を受けないですが、売上原価ベースは、売上原価を分析対象とするため、
在庫の増減の影響を受けます。
期首と期末の在庫の状況が同じであれば、両者は同じ割合ととなりますが、
期首と期末の在庫の状況に変化が生じている場合には、両者の割合に乖離が生じます。

・数値例

以下は、売上原価8億円、期末仕入債務残高2億円、年間仕入高6億円の企業の仕入債務回転率の計算例です。

①原価ベースの仕入債務回転率

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\begin{eqnarray}
仕入債務回転率(原価ベース) &=& 8億円 ÷ 2億円 \\
&=& 4.0回
\end{eqnarray}
$

② 仕入ベースの仕入債務回転率

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\begin{eqnarray}
仕入債務回転率(仕入ベース) &=& 6億円 ÷ 2億円 \\
&=& 3.0回
\end{eqnarray}
$

効率性分析を行う際の注意点

効率性分析は、企業がいかに効率的に経営を行っているかを分析する重要な手法です。
しかし、分析した指標を正しく解釈するためには、以下の点に注意する必要があります。

1. 業界による指標の違いを考慮する

効率性分析指標は、業界によって大きく異なります。
そのため、同業他社や業界平均と比較することが重要です。
これらと比較することで、自社の強みや弱みをより客観的に把握できます。
業界団体や調査機関の情報を活用してみましょう。

2. 定性的な情報も考慮する

効率性分析指標は定量的な指標であり、企業の経営状況を数字で端的に説明します。
しかし、指標だけでは見えない経営戦略、顧客満足度、競合状況等の定性的な情報も
考慮することでより深い深い分析を行うことができます。

4. 複数の指標を組み合わせて分析する

単一の指標だけで判断するのではなく、複数の指標を組み合わせて分析することで、
より客観的な評価を行うことができます。
例えば、支払債務回転率が高い場合には、債務の支払いが迅速にできていることを意味しますが、
反面、資金の流出スピードが速いため、財務の安全性を損なっている可能性があります。
指標は一つの側面を表すだけですので、複数の指標を利用して多面的に分析することが大切です。

5. 過去の指標との比較を行う

効率性分析において、過去の指標と比較することは、
自社企業の業績がどのようなトレンドで推移しているのかを把握することができます。
また、過去の指標と比較することで、特定の指標が悪化している原因を分析することができます。
そして、新しい経営戦略を導入した場合、その効果を過去の指標と比較することで測定することができます。

まとめ

効率性分析について説明しました。
効率性分析は、総資本回転率、売上債権回転率、棚卸資産回転率、仕入債務回転率の4つの指標を用いて
決算書を用いて企業の経営効率を分析する重要な手法です。
分析結果を正しく解釈し利用すれば、経営戦略の策定、金融機関への説明、
企業内部のコミュニケーションの強化に役立てることができます。
自社で効率性分析を活用してみたいとお考えの方はぜひ弊所までお気軽にご相談ください。