事前確定届出給与とは? 役員賞与を支給したい場合の基礎知識の説明

事前確定届出給与とは? 役員賞与を支給したい場合の基礎知識の説明 税金

事前確定届出給与とは、事前に税務署に内容を届け出たうえで役員に支給する給与のことです。
役員に対する賞与は、もともとは利益操作につながるため法人税の計算上経費とは認められません。
しかし、この事前確定届出給与のルールに従って支給した役員に対する賞与は、
特別に経費として認められます。
この記事では、役員に賞与を支給したい場合に知っておくべき
事前確定届出給与の基礎知識を説明します。

事前確定届出給与とは?

事前確定届出給与とは、役員に対して所定の時期に確定した額の金銭等を交付する旨の定めに
基づいて支給される給与のことです。
そして、この事前確定届出給与に該当すれば、その給与が損金となります。

このことをざっくりいえば、役員に対する給与で、

  • 税務署に賞与の支給日と支給額をあらかじめ届出をしている
  • その届出の通りに賞与を支給している

の2つの要件を共に満たしていれば、法人税の計算上、経費として認められるということです。

この事前に税務署に届け出る書類を「事前確定届出給与に関する届出書」といいます。

016事前確定届出給与に関する届出書


事前確定届出給与のメリット

事前確定届出給与のメリットは、
役員賞与を事前確定届出給与に該当する形で支給すると
法人税の計算において経費として認められることです。

もともと、役員賞与は利益操作につながるため
法人税の計算において、経費としては認められません。
例えば、決算期直前に、利益が想定以上に出ていることが分かり、
急遽、役員に対して賞与を支給してそれが経費とすることが出来たら
利益操作が自由にできることになります。

しかし、事前確定届出給与に該当する形で役員賞与を支給した場合には、
事前に賞与の内容を税務署に届け出ているため利益操作目的ではないことになります。
そのため、この場合の賞与は経費と認められるのです。

もし、事前確定届出給与に該当しない形で役員賞与を支給すると、
その賞与は、法人税の計算においては経費として認められませんので
法人税の負担が増えてしまいます。
その一方で、役員個人に対しては賞与の支給を受けた分の所得税が課されてしまいます。
つまり、ある意味二重に課税されて大きく損をしてしまうことになります。

役員に対しても従業員と同じように賞与を支給したいというニーズは多いと思います。
せっかく役員賞与を支給するのであれば、
事前確定届出給与の要件を満たして税金の負担が抑えられるようにしましょう。

事前確定届出給与の手続きについて

役員賞与を経費として認めさせるためには
事前確定届出給与として以下の手続きが必要になります。

  1. 株主総会で支給時期と支給日を決議し、その旨を記載した議事録を作成する
  2. 事前確定届出給与に関する届出書を提出期限までに税務署に提出する
  3. 決議した支給時期と支給日に実際に支給する

①株主総会で支給時期と支給日を決議し、その旨を記載した議事録を作成する

事前確定届出給与(役員賞与)の支給時期と支給日を株主総会で決議します。
事前確定届出給与を含む役員報酬は、
基本的にはその事業年度末から2月以内に開催される定時株主総会で決議されます。
この株主総会で各役員に対する

  • 毎月の給与(=定期同額給与)支給額
  • 賞与(=事前確定届出給与) 支給日と支給額

を具体的に決めます。

※株主総会では役員全員の役員報酬の総額だけ定めて、
各役員の個別の具体額は取締役会で決めることもできます。
※支給日は、金融機関が使えない休日を設定しないように注意しましょう。

②事前確定届出給与に関する届出書を提出期限までに税務署に提出する

事前確定届出給与に関する届出書を
①で決議した内容の通りに作成し、提出期限までに管轄の税務署に提出する必要があります。
提出期限を過ぎて提出しても経費とは認めてもらえませんので忘れないように注意が必要です。

提出期限は、以下のとおりです。

通常の場合次のいずれか早い日
・事前確定届出給与について決議した日(※)から1月を経過する日
・その会計期間開始の日から4月を経過する日
設立時の場合その設立の日以後2月を経過する日
※同日がその職務の執行を開始する日後である場合にあっては、当該開始する日

③決議した支給時期と支給額に実際に支給する

最後に、①で決議した支給日と支給額に実際に支給します。
1日でも支給日がずれたり、支給額が違っていたら経費として計上できなくなるので
間違えないようにしましょう。
また、あとで客観的に説明できるように金融機関の口座から振込を使う方が良いでしょう。

事前確定届出給与の内容を変更する場合

事前確定届出給与(役員賞与)の内容は臨時改定事由と業績悪化事由が生じた場合には変更することができます。

事由の内容変更届出の提出期限
臨時改定事由役員の職制上の地位の変更
役員の職務の重大な変更
臨時改定事由が生じた日から1月以内
業績悪化改定事由会社の業績が著しく悪化した場合次のいずれか早い日
・内容の変更に関する株主総会等の決議をした日から1月を経過する日
・変更前の内容に基づく事前確定届出給与の支給の日の前日

臨時改定事由

臨時改定事由とは、「役員の職制上の地位の変更」や「役員の職務の重大な変更」などにより、
事前確定届出給与を変更する必要があるような場合のことです。

役員の職制上の地位の変更とは、平取締役が代表取締役に昇格するといった役員の地位の変更のことです。

役員の職務の重大な変更とは、役員が病気やケガで入院して職務を遂行できなくなった等の
当初予定していた職務内容に重大な変更が生じた場合です。

変更届の提出期限は、当該臨時改定事由が生じた日から1月を経過する日となります。

業績悪化改定事由

業績悪化改定事由とは、会社の業績が著しく悪化した場合をいいます。
著しい悪化の程度については細かく規定されてはいませんが、
単に業績が悪化したという理由では認められない可能性があるので
改定できるかどうかは慎重に判断するように注意しましょう。

変更届の提出期限は、以下のいずれか早い日となります。

  • 内容の変更に関する株主総会等の決議をした日から1月を経過する日
  • 変更前の内容に基づく事前確定届出給与の支給の日の前日

もし届出どおりに支給しなかったら

事前確定届出給与について、もし届出通りに支給しなかったらどうなるか説明します。

・支給日や支給額が違う場合

事前確定届出給与について、届出どおりの支給日や支給額と違う形で支給した場合には、
支給した役員賞与全額が、法人税の計算において経費になりません。
つまり、法人税の負担が増えてしまいます。
1日のずれや1円のずれでも経費になりませんので注意が必要です。

・不支給の場合

役員賞与を不支給とする場合にも注意が必要です。
不支給の場合には経費にならない部分が0円になるので影響はないと考えるかもしれませんが、
法人税の計算の上では、
一旦、届出通りに役員賞与を支給し、そのあとで役員がその支給を返金したと考えます。
そのため、いったん支給されている以上役員賞与分の源泉所得税の負担が生じてしまいます。

これを回避するためには、
支給日前に役員から賞与を受けない旨の辞退届と
不支給とする旨の株主総会の議事録を作成しておく必要があります。

このように対処しておけば、
完全に役員賞与の支給はなかったことになり、
源泉所得税の負担も役員自身の所得税の負担も回避できます。

補足 
役員の職務内容に照らして、不相当に高額な金額を支給すると
経費として認められない可能性がありますので、その点は注意が必要です。

まとめ

役員賞与を支給する際に知っておくべき事前確定届出給与について説明しました。
役員に対しても賞与を支給したいニーズは多いと思います。
しかし、一方で役員賞与は自分で決定するため利益操作に利用される可能性があり、
本来であれば法人税の計算において経費として認められません。
そこで、事前確定届出給与というルールに従って支給された役員賞与については
特別に経費として認められることになります。
事前確定届出給与は、事前に支給する賞与の支給日と支給額を税務署に届出る必要があります。
そして、その届出どおりに支給しなければ経費として認められず影響が大きいです。
事前確定届出給与はメリットが大きい反面、利用する場合には最新のご注意が必要です。